本気度問われる米の対テロ戦
オバマ米大統領は上下両院合同会議で、今後1年問の内政・外交全般の重要政策課題を議会に説明する一般教書演説を行った。2期目の任期の後半2年間がスタートした。
多くの時間を内政に
昨年11月の中間選挙後、野党・共和党が上下両院で多数派を占める新議会での最初の一般教書演説であった。オバマ大統領は過激組織「イスラム国」との戦いについて、米軍の軍事作戦の効果を強調し、アラブ諸国を含む有志連合を率いて「最終的に打ち負かす」との決意を重ねて表明。テロとの戦いで世界をリードする考えを明言した。
ただ、こうした取り組みには「時間がかかるだろう」と述べた上で、議会に対して「イスラム国」への武力行使を認める決議案承認を要求。「それがわれわれの団結を世界に示すことになる」と強調した。テロ対策の実施において議会との協調は当然であるが、議会に下駄を預けた発言とも取られかねない。
現在「イスラム国」を名乗るグループが日本人2人の殺害を警告している。しかし、演説で同盟国の日本に直接触れることはなかった。アジア太平洋政策に関する言及も、環太平洋連携協定(TPP)交渉を除けばわずかだった。
約1時間に及んだ演説は事前に予想された内容に近く、昨年より外交問題に言及する時間が幾分長かったとはいえ、多くが内政とりわけ経済問題に費やされた。大統領は6年間を顧みて、財政赤字が縮小し、製造業は80万人を雇うなど、景気と雇用の顕著な回復をアピール。米経済が安定した成長軌道に乗ったことを宣言した。
この点は既に昨年中間選挙時にも明らかであったが、一般教書演説では、こうした好況を背景に、敢(あ)えて最富裕層と他の人々との格差を是正すべき時が来たとして「われわれはごく少数の市民だけが華々しく成功する経済を受け入れるだろうか。それとも、努力する全ての人々に所得拡大とチャンスを与える経済の実現に全力を尽くすだろうか」と訴えた。
具体的には富裕層が保有する株式などの資産課税を大幅に強化する一方、中低所得世帯への減税措置や子育て支援の強化、さらにはコミュニティー・カレッジの無償化など多様な提案が披歴された。
格差社会の是正は言うは易しいが、抜本的な税制改革に踏み込むことが避けられない。また中間層支援とはいえ、リベラル色が強いことは否めず、共和党の協力を得ることは難しいと言わざるを得ない。せっかくの提案が絵に描いた餅であってはならない。
オバマ氏は指導力発揮を
大統領は演説の冒頭で「二つの戦争(イラク、アフガニスタン)と不況の15年から新たな時代に入った。今晩、われわれは新しいページをめくろう」と宣言した。
内政、外交を問わず、それだけの強い決意が行動となって表れることを期待するのは、米国民ばかりでなく常識ある世界各国の人々全てである。米国の地位低下が指摘される今こそ、大統領のさらなるリーダーシップが求められる。
(1月22日付社説)