辺野古への移設阻止へ10件目の訴訟に突入
米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設先・名護市辺野古で代替施設建設のための埋め立て工事が進む中、沖縄県は国に対し数々の訴訟を行ってきた。これまですべて敗訴または訴訟を取り下げてきたが、埋め立て工事の設計変更を「不承認」としたことで、新たな国との訴訟に突入する。来年1月23日投開票の名護市長選が近づく中、訴訟を通じて移設反対の機運を高めたい玉城デニー知事の狙いが透けて見える。(沖縄支局・豊田 剛)
玉城知事、辺野古埋め立て設計変更を「不承認」
政府が辺野古沿岸に土砂投入を始めてから14日で3年になり、埋め立て予定面積約152㌶のうち、米軍キャンプ・シュワブ南側の41㌶は既に陸地化された。着々と工事が進む中、玉城知事は11月25日、沖縄防衛局から提出されていた設計変更の申請を不承認とした。
不承認の理由として、県は①地盤の安定性などに関して重要な地点で必要な調査が実施されていない②一番深くまで軟弱地盤がある地点で、改良を行えない深度の地盤状態が分かる試験が行われていない③ジュゴンに及ぼす影響について十分な情報が収集されていない――ことなどを挙げた。
これに対し、普天間飛行場の移設先を「辺野古が唯一」として埋め立て工事を進める政府は法廷闘争の対抗措置に出た。防衛省は、変更申請の審査に伴い県からの452の質問に全て回答している。
名護市長選へ反対高揚か、過去の裁判とは異質と県当局
辺野古移設阻止に向け玉城知事が現時点で持っている最後のカードである不承認判断をいつするのか、そのタイミングが注目されていた。結果的に投開票を2カ月後に控えた名護市長選を視野にこのタイミングとなったとの見方が有力だ。来年秋の県知事選に向けた政治的な駆け引きも活発となる可能性が高い。
不承認からわずか15日後に辺野古関連で係争中の九つ目の訴訟で敗訴が確定的になった。県による埋め立て承認撤回を取り消した国土交通相の裁決は違法だとして、県が裁決取り消しを求めた抗告訴訟の控訴審判決で、福岡高裁那覇支部(谷口豊裁判長)は、訴えを却下した一審那覇地裁判決を支持し、県の控訴を棄却したのだ。
同訴訟の経緯はこうだ。埋め立て予定区域の大浦湾側で軟弱地盤が見つかったことで、県は2018年8月、仲井眞弘多(ひろかず)知事(当時)による埋め立て承認を撤回。これに対し沖縄防衛局が行政不服審査制度を使って国交相に審査請求を行うと、国交相は翌年4月、県の承認撤回を取り消す裁決を下した。そこで県は19年8月、国交相裁決の取り消しを求める訴訟を起こしたが、那覇地裁は県に原告としての適格がないとして訴えを退けていた。
過去の辺野古関連訴訟ですべて敗訴または訴訟取り下げとなっていることについて県当局は、「過去の裁判は、2013年に当時の仲井真知事が埋め立てを承認したことについて、翁長前知事と玉城知事が覆すことの是非が争われたが、今回の設計変更不承認の判断は知事の裁量範囲で、これまでとは異質だ」と強気の姿勢を示す。
強まる知事への不信、容認派市長は再選へ連帯強化
ただ、知事が県議会と相談せず不承認に踏み切ったことで、野党県議を中心に知事への不信が強まっている。
県議会の定例会では自民会派を中心に辺野古移設をめぐる知事の姿勢について質問が集中した。仲里全孝県議(自民)が衆院選で名護市を含む沖縄3区で移設を容認する候補が勝利したことの民意を尋ねると、金城賢知事公室長は「新型コロナウイルスや新たな沖縄振興、コロナ対策後の経済などが争点になり、辺野古新基地建設は大きな争点にはならなかった」と答弁した。
これについて花城大輔県議は「(県は自分にとって)都合の良い民意と、都合の悪い民意を使い分けているとしか思えない」と批判。沖縄振興などで自民党にお願いしながら、3区で別の候補者を応援するやり方にも苦言を呈した。
辺野古移設をめぐる過去9件の訴訟費用は、弁護士費用、旅費などの経費加えると約1億9500万円だ。さらに、辺野古移設対策の窓口として玉城県政下で設置された「辺野古新基地対策課」の職員は9人で、年間6000万円の人件費が発生している。
今度の訴訟は10件目となり、訴訟費用の合計はとうとう2億円を上回ることになる。
普天間飛行場を抱える宜野湾市の松川正則市長は、新たな訴訟が始まれば「返還時期がずれ込み、事件事故、騒音被害といった負担が長引くだけだ」と困り顔だ。
宜野湾と名護の両市長は辺野古移設に容認の立場だ。松川市長や宜野湾市議団は1月23日の名護市長選に向け、現職の再選のために連帯する意向を示している。