労組の反派遣法改正、雇用問題は与野党で熟議を

 春闘の賃上げでは労働界と安倍政権に“あうんの呼吸”が働いたが、11日に国会に提出された労働者派遣法改正案で元の対立関係に戻った。支援労組を持つ民主党、共産党、社民党などの機関紙・誌には、派遣法改正案を批判する記事が相次いでいる 。

 派遣法改正案は、派遣事業すべてを許可制にし、派遣労働者の派遣先労働期間3年の上限規制に専門26業務(ソフトウェア開発、機械設計など)を除いていたのを撤廃、派遣労働者を3年で交代させれば企業は派遣労働を無期限利用できる――などだ 。

 自民党機関紙「自由民主」(3・18)は「提出法案解説」で同法案などを扱った。「労働の構造変化に的確に対応」という見出しの記事で、「少子高齢化による労働力人口の減少をはじめ、価値観や希望する働き方の多様化、国際競争の激化などの影響を受け、日本経済を取り巻く状況や就業構造は変遷している。日本企業が高い競争力を維持し、グローバルな戦いに勝ち抜いていくためには、労働の需要・供給両面における構造変化に的確に対応し、最前線で働く人材の活躍を促すことが求められている」と法案の背景を説明している 。

 力点を「企業の競争力」に置き、企業にとって融通の利く雇用像を描いたことは疑いない。また記事では、「許可制」という派遣事業への「規制の強化」を強調するが、雇用については「規制緩和」の表現を避けている。野党側が盛んに「規制緩和」批判をしているからだろう 。

 民主党機関紙「プレス民主」(3・7)は、「派遣法見直し案はブラック企業を後押しする改悪だ」の見出しで、同党が開いた「派遣労働を考えるシンポジウム」の記事を掲載。「派遣労働者も増えかねないという法案なら断固として阻止しなくてはならない」(山井和則厚生労働部門座長)との意気込みだ 。

 労組側は派遣法改正により企業が解雇しやすい派遣労働者を増やすことを警戒している。同紙では企業の派遣社員「使い捨て」の実態などが報告されている 。

 共産党の月刊誌「前衛」4月号は「労働法の全面的規制緩和の『総攻撃』に対抗する」(弁護士・笹山尚人氏)と題して、同法案などが目指すのは「『クビを切りやすい』社会」など批判を加えた。ある飲食チェーン店の非正規雇用の労働問題を例に挙げているが、デフレ時代の価格破壊競争が雇用に跳ね返った現実もある。赤字になれば店をたたむチェーン店は融通の利く雇用に頼る一方で批判も浴び、同党の標的になりやすい 。

 同改正案では派遣労働者が3年期限に達したら正規雇用を働きかける仕組みがある。安倍首相は国会答弁で派遣労働者の増加に否定的な考えを示したが、鍵は同政権が目指しているデフレの悪循環から脱して好循環経済に転換することだ。逆に不況となれば野党の懸念が的中するケースが増える。労使を国会で代理する与野党に熟議の雇用論議を望みたい。

解説室長 窪田 伸雄