国民投票法、公務員の政治活動を許すな


 憲法改正手続法(いわゆる国民投票法)の改正案づくりが大詰めを迎えている。自民、公明、民主の3党は投票年齢や公務員の政治活動などについて大筋で合意し、他党との折衝も続けている。

 国民投票法は憲法改正への入り口だ。それだけに国民投票の実施に向けた環境整備の進展は歓迎される。だが、3党案には重大な疑問が残る。

民主に配慮した改正案

 国民投票法は2007年に成立したが、公務員の政治活動について課題を残してきた。公務員や教育者の地位利用による国民投票運動を禁止するものの罰則がなく、付則で公務員の賛否の勧誘や意見表明が制限されないよう国家公務員法と地方公務員法の見直しを求めている。

 これに対して3党案は公務員の賛否の勧誘や意見表明を容認し、現行法で禁じる組織的な「勧誘運動」の規定を削除する方向で検討するとしている。地位利用の罰則規定についても今後の検討課題として先送りした。つまり公務員労組の組織的な運動を認めようというのだ。

 到底納得できない。公務員は「全体の奉仕者」(憲法15条)だ。一部の党派的利益に奉仕し、政治的中立を損なうことがあっては断じてならない。

 最高裁は1974年の猿仏判決で「もし公務員の政治的行為のすべてが自由に放任されるときは、おのずから公務員の政治的中立が損なわれ、行政の中立的運営に対する国民の信頼も損なわれることを免れない」としている。

 また2012年、政党機関紙配布事件で国家公務員法の政治活動の制限規定を合憲とし、制限の範囲を「政治的中立性を損なう恐れが実質的に認められる行為に限られる」として違法性について「総合的に判断」するとした。

 これをもって一部に政治活動が容認されたかのような主張があるが、判決はあくまでも政治的中立性を損なう行為を許していない。憲法改正をめぐって公務員の組織的な運動を認めれば、損なわれるのは明白だ。地位利用に罰則を設けなければ、ザル法に等しい。

 そもそも公務員労組の政治活動は目に余るものがある。例えば、沖縄県における「オスプレイ反対闘争」では地元の県教組や県職労などのほか、本土からも多数の公務員労組が組織的に動員され、デモや集会を繰り広げている。また北海道教組や神奈川県教組、山梨県教組などが組織ぐるみの選挙違反事件を引き起こした。

 こうしたイデオロギー的政治活動を行う公務員労組は旧総評系の日教組(約26万人)や自治労(約83万人)、国公連合(約10万人)など多数に上る。与党案では当初、組織的運動を禁止していたが、公務員労組を支持母体にする民主党に配慮したとされる。これには大阪府・市で労組と戦ってきた日本維新の会が反対している。当然だろう。

安易な妥協は避けよ

 憲法改正への環境整備を急ぐのは理解できる。だが、安易な妥協で、肝心の改正を妨げる愚は避けねばならない。公務員の政治的中立を損なう国民投票法であってはならない。

(3月22日付社説)