鮮明化する米中の覇権争い

拓殖大学国際日本文化研究所教授 ペマ・ギャルポ

一党独裁・専制主義の中国
自由と民主主義尊重する米国

ペマ・ギャルポ

拓殖大学国際日本文化研究所教授 ペマ・ギャルポ

 中国と米国の対立は、より鮮明に、より激しくなってきているように思う。その中でチベット、ウイグルあるいは南モンゴルをはじめとする地域で、中国が現在行っている人権弾圧が焦点になっている。それに加え台湾問題とアフガニスタンのタリバンの問題が米中両国の重要な駆け引きの中核である。7月26日に行われた米中高官の会談は、双方の立場を強調する場となり、表面的には大きな成果はなかったように見えた。だが両国の立場から見れば、それぞれが自国の主張を述べ合うと同時に、お互いの腹を探り合うという意味では、それなりの成果があったと解釈できる。

中国、タリバンに急接近

 米国のシャーマン国務副長官と中国の謝鋒外務次官と王毅外相の会談で米国側は、中国のウイグルにおけるジェノサイド(集団虐殺)、チベットにおける宗教弾圧など文化的ジェノサイドの他、モンゴルおよび中国の人権問題や、南シナ海、東シナ海における国際ルールの違反、さらに香港に対する挑発的行為などを取り上げ、中国を批判した。

 これに対して中国は、これらは中国の内政問題であり米国が介入すべきことではないとして激しく反論した。逆に米国の競争・協力・対抗という三分法は中国を封じ込めるための目くらましであり、米国が中国の内政干渉と封じ込め政策をやめることが先であり、それなしに都合よく協力を求めても応じられないとはねつけた。

 米国が求めた協力とはグローバル問題としての気候変動と、イランや北朝鮮の核問題であり、競争とは世界覇権、対抗とは台湾および西太平洋の安全保障を中心とする中国の覇権行為への対応を示している。

 それを受けたかのように7月28日、米国のブリンケン国務長官はインドでダライ・ラマ法王のニューデリー代表ンゴドゥップ・ツェリン・ドンチュン氏と面会。同じ日、王毅外相は天津でアフガニスタン反政府勢力の幹部と会談した。これは偶然にしては出来過ぎと思うほどの両国による外交演出にも見える。

 王毅外相は「米国と北大西洋条約機構(NATO)が慌ててアフガニスタンから撤退したことは米国の政策の失敗を意味する」との見解を示し、タリバンがウイグル独立勢力などあらゆるテロ組織と徹底的に一線を画すよう求めた、と中国の外務省報道官は述べている。

 中国側は、今後アフガニスタン問題に対してはタリバンが中核的な役割を果たさなければならないとし、タリバンに期待を掛けると同時に急接近していることが明確となった。世界一のテロ国家・中国と、今まで幾つかの国際的なテロ行為を行ったとされるタリバンが、非武装のウイグルなどの活動をテロと一方的に決めつけることは洒落にもならない。

 現にアフガニスタンでは米国の撤退に伴い、タリバンが二つ以上の地方を武力制圧し、既に二重政府が存在し始めている。中国は今後ますますアフガニスタンの反政府勢力を応援し、アフガニスタン問題がますます複雑化するとともに今後、この地域が中国の影響下に落ちる可能性は大きくなった。

 一方、デリーでダライ・ラマ法王の代表と会ったブリンケン国務長官は、チベットの人権問題、宗教の自由、さらにダライ・ラマ法王の転生の問題などに対して、モラルサポートを継続することを確認した。ダライ・ラマ法王の代表も、最近、米議会で可決したチベット支援の法律などに感謝を述べた。つまり現段階で米国は民主的に法の精神に基づいてウイグル問題やチベット問題を解決しようとしている。

 この二つの政府の取り組み方を見ても分かるように、武力を背景にして問題を解決しようとする専制政治と、自由と民主主義の精神に基づいて臨む米国の姿勢は明らかに異なる。要するに世間で言う米中覇権争いとは、自由と民主主義、法の支配を重んじる勢力と、あくまでも武力、暴力を背景にする一党独裁の専制主義の戦いの構図と言えよう。

日本に指導力発揮期待

 残念ながら日本では中国の人権弾圧を批判する国会決議は特定の政治家と政党によって妨害され、いったん流れたが、次期総選挙後、自由と民主主義、法の支配を尊ぶ日本が自由陣営の中心的なリーダーシップを発揮することを期待したい。そのような意味で、日本で行われた日米台の議員有志会における安倍前首相の出席と発言は、世界に対して日本の勇気ある行為の第一歩であり、評価に値する。