浦添市長選、那覇軍港移設の是非で保革が激突

「容認」の玉城知事には不都合な選挙、7日投開票

 日米両政府が那覇軍港の移設先としている浦添市の市長選が1月31日告示され、2月7日の投開票に向け選挙戦に突入した。届け出順に、自公推薦で3期目を目指す現職の松本哲治氏(53)と、共産や社民など革新勢力が支援する前浦添市議の伊礼悠記氏(38)の2人が立候補。米軍基地問題が大きな争点となる保革一騎打ちの選挙は2019年7月の参院選以来、1年半ぶり。来年11月に予定される知事選の前哨戦として注目される。(沖縄支局・豊田 剛)


日米両政府の合意を尊重、自公推薦で3期目を目指す現職の松本氏

浦添市長選、那覇軍港移設の是非で保革が激突

出陣式で3期目に向けての決意を語る松本哲治氏=1月31日、沖縄県浦添市城間(写真・豊田 剛)

 松本氏は「8年間の判断を今後4年間も続けていいのか信任してもらうことが最大の争点」と位置付けている。松本氏は米国留学を経験した後、福祉関係のNPO法人に携わった。米軍キャンプ・キンザー(牧港補給庫)の跡地利用計画やスマートシティーの実現に向けては、市民の意見を取り入れながら広い視野で街づくりを進めている。自民党県連幹部は、「県内で抜きん出たリーダーだ」とお墨付きを与える。松本氏は「3期目は、これまで種をまいて準備してきたものを実践し花開く時だ」と述べ、市政継続への理解を求める。

 那覇軍港の浦添ふ頭への移設については容認の立場だ。公開討論会では、「市民にとっては苦しい決断かもしれない。しかし、那覇市、県全体の発展と喜びに変わるのであれば、しっかりとそれを受け止めていくのも政治の選択だ」と話した。

 外交防衛は国の専権事項だ。浦添移設は日米両政府の合意の下、沖縄県と那覇市と浦添市で構成される移設協議会で決める問題であることを踏まえ、松本氏は「浦添市だけで決められないことは公約にしない」という立場だ。

移設なき無条件返還訴え、革新勢力が支援する前浦添市議の伊礼氏

浦添市長選、那覇軍港移設の是非で保革が激突

沖縄県浦添市の選挙事務所前街頭演説する伊礼悠記氏=2日、沖縄県浦添市城間(写真・豊田 剛)

 一方、伊礼氏は軍港の移設先となる西洲(いりじま)地区の海辺で第一声を上げ、「きれいな海を未来に引き継いでいくべきだ。戦争のための軍港を造ることは絶対に許せない」と訴えた。

 伊礼氏は過去2度の市議選でトップ当選を果たした革新のホープとも言える。出馬するに当たり、社民など革新政党や団体から支援を得るために共産党を離党して無所属の立場で出馬した。那覇軍港は移設なき無条件返還を求める立場だ。

 玉城知事を支える「オール沖縄」を構成する共産党県委員会、社民党県連、沖縄社会大衆党、立憲民主党県連、さらに、革新系労組・団体が支援する。ところが、30日に開かれた決起集会、31日の出陣式では軍港移設を容認する玉城知事ら県役員の姿はなかった。「玉城デニー知事を支える」というのがオール沖縄の常套(じょうとう)句だが、ほとんどの弁士からは知事の名前が出てこない。県知事を先頭に辺野古反対でまとまってきた「オール沖縄」勢力は、那覇軍港問題で一枚岩になることができず、内部結束が十分でないのが実情だ。

 政策発表の場では、軍港移設で知事と違いがあることを認めた上で、「それ以外では『オール沖縄』の考えで一致する」と述べ、知事の支援を受けたい考えを示した。

 「オール沖縄の枠組みで、(米軍普天間基地の名護市辺野古への移設に反対する)建白書の実現や、大きな枠組みで共に取り組む候補をこれまで支援してきた。方向性は一致している」

 玉城知事は1月29日の記者会見でこう述べた。その上で、1日までにSNS上で伊礼氏を応援するメッセージを寄せたが、その中では軍港には一言も触れなかった。

自民党、負の連鎖避けたい、全国選挙並みに力を注ぐ

 これに対し、松本氏は31日の出陣式で「誰かを批判したり、ネガティブな言葉を使って不安をあおり、市民を分断する必要はない」と訴え、軍港移設計画に反対する相手候補を牽制(けんせい)。「ポジティブに前向きに、心一つに連帯し、この街の未来に向かって歩いていこう」と述べ、未来志向で市政運営を進めていくことを決意した。

 松本陣営の幹部は、「現職だから大丈夫という考えは排除しなければならない」と厳しい表情で語った。宮古島市では自公が推薦した現職、下地敏彦氏が4選を目指したが、元自民系県議で玉城デニー革新県政を推す「オール沖縄」が支援した座喜味一幸氏に敗れた。

 県内の市長選では、過去3年で自公が推薦する市長を南城、豊見城、糸満、宮古島の4市で失った。自民党県連幹部は「決して向こう側(革新)に風が吹いているわけではないが、候補者個人や調整の問題もあった」と指摘。「こうした問題は浦添市では当てはまらないが、負の連鎖は避けたい」と気を引き締める。政府・与党は宮古島市長選に続き、党本部の職員を派遣。全国選挙並みに力を注いでいる。

 告示前日の1月30日現在の有権者数は9万964人。市長選では、キャンプ・キンザー返還後の開発計画、新型コロナウイルスで影響を受けた市民や事業者への支援のあり方も争点となっている。


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那覇軍港の浦添移設

 1974年、日米両政府が移設を条件に返還合意した。その後、浦添市沿岸部を約49㌶埋め立てて移設する計画で両政府が合意。代替施設を完成させ、「2028年度かそれ以降」に軍港の移設と返還が実現される。昨年8月、当事者である沖縄県と那覇市、浦添市の3者が、浦添ふ頭の北側地区への移設で大枠合意した。