八重山地方への海自誘致を、地元が正式に求める

 尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺の接続水域内での中国公船の航行日数が今年に入り、300日を超え、過去最高を更新している。こうした中、地元、八重山防衛協会は海上自衛隊の八重山地方への誘致を正式に求めた。海自の八重山配備要請は初めてで、尖閣防衛の議論がさらに加速することが予想される。(沖縄支局・豊田 剛)


「海警」の活動活発化を念頭に、警戒監視体制と防衛力強化を求める

 中国海警局の公船(「海警」)が尖閣諸島周辺での活動を活発化させている。4月14日~8月2日に、12年に政府が尖閣諸島を国有化して以来、最長となる111日間連続で尖閣周辺の接続水域内を航行。7月4~5日には30時間以上にわたり領海内に侵入。その間、地元の漁船を威嚇しながら追尾した。11月22日現在、78日連続で接続水域内を航行し、年間では304日となった。

八重山地方への海自誘致を、地元が正式に求める

尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺の地図

 砥板芳行・石垣市議は、「台風や公船の交代以外では、ほぼ常駐している」と指摘する。地元漁民を中心に常に恐怖と隣り合わせの生活を強いられている。こうした状況の中、八重山防衛協会の三木巖(いわお)会長らは10月20日、防衛省を訪れ、坂本大祐防衛計画課長と面談し、八重山地方への海上自衛隊の基地整備を要請した。

 要請書では、中国海警局の公船が尖閣諸島周辺で接続水域内や領海内の航行、漁船追尾などを続けていることを踏まえ、日本側の警戒監視体制と防衛力を強化する必要性を訴えた。

 中国海警局はこれまで、中華人民共和国中央政府国務院と中央軍事委員会の両方の指揮下にある海の法執行機関だったが、2018年から中央軍事委員会の指揮下に入っていることについて、要請文では「今年からは完全に中国海軍と一体的に運用され、事実上の中国海軍の艦船となっている」と断じた。

自民党国防議員連盟、南西諸島での日米合同訓練などを政府に提言

 自民党内では、尖閣諸島防衛を念頭に「防衛力強化」の議論が活発化している。自民党国防議員連盟(衛藤征士郎会長)は9月23日、尖閣諸島の実効支配を強化する対策を政府に提言。「わが国の主権に関わる極めて重要な問題と認識する必要がある」と明記した。

 提言では、尖閣諸島を含む南西諸島で自衛隊と米軍の日米共同訓練を実施するよう求めた。また、下地島空港(宮古島市)など南西諸島の空港・港湾を自衛隊が使用できるよう整備することも提案。与那国島に自衛隊の護衛艦が入港できる港湾を整備することも盛り込んだ。

八重山地方への海自誘致を、地元が正式に求める

尖閣諸島で漁船(手前)の安全を担う海上保安庁第11管区石垣保安部の巡視船(奥)=沖縄県石垣市の石垣埠頭(豊田 剛 撮影)

 また、これとは別に、一部の自民党国会議員でつくる「日本の尊厳と国益を護る会」(代表、青山繁晴参院議員)は今年5月、中国海警局の船が領海を侵犯し、漁船を威嚇し追尾した行為について「いまだかつてない暴挙」で、「全くもって言語道断、無法者国家の所業」と断罪した。

 その上で、①尖閣諸島に石垣市と政府合同の海洋自然調査団を派遣し上陸調査する②尖閣諸島で米軍と合同演習する③尖閣諸島に漁業者の安全確保のための船だまりなどの施設を整備する④尖閣諸島と周辺海域の海上保安庁及び自衛隊による領土・領海警備活動を実施し、海保巡視船が中国船に対抗できるように大型化する⑤海難救助・気象観測などを目的とした「魚釣島測候所設置法(仮称)」を制定する――ことを求めた。

石垣市議会は上陸調査を要請防衛協会「先島に海自の補給基地を」

 石垣市議会は10月、尖閣諸島への上陸調査を国に要請した。これに対し、政府は人工衛星画像を用いて自然環境の調査を検討する考えを明らかにしている。

 三木氏は、与党政府内で尖閣諸島防衛の意識が高まっている機運を歓迎。こうした提言が、地元八重山地方の動きを後押しする要因となっている。

 八重山防衛協会のある役員は、「現場で対応している海保の後ろには海自も控えていて、しっかり連携している。ただ、先島に海自の補給基地があれば、より効果的かつ柔軟に中国海警に対応できるようになる」と期待を示す。

 中国共産党は10月末の全国人民代表大会(全人代)で、国防法改正案を提示した。「経済的利益が脅かされる場合」にも戦争に踏み切るとの宣言だ。併せて海警局の権限を強化する法案も発表した。

 元在沖米海兵隊政務外交部次長のロバート・エルドリッヂ氏は、尖閣諸島について米国は日本の施政権を認めながらも、領有権を明言しないことを懸念。「ここを中国が突いてくる可能性がある。日本の覚悟がなければ、米国は守れない」と指摘した。その上で、「万が一、尖閣諸島を実効支配された場合、尖閣を取り返そうとする日本は“現状を変更しようとする国”として国連や国際社会から冷たい目で見られる」と、危機感を募らせた。


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南西諸島への自衛隊配備

2016年3月
 与那国島に駐屯地(沿岸監視隊)を開設
2019年3月
 奄美大島に奄美駐屯地(警備隊、地対空ミサイル)と
  瀬戸内分屯地(警備隊と、地対艦ミサイル)を開設
2019年3月
 宮古島駐屯地(警備隊、地対空・地対艦ミサイル)が開設
2019年3月
 石垣島駐屯地(警備隊、地対艦ミサイル部隊)が着工