国連人権理事会の綱引き

ストップ中国的人権規範拡大

 中国の人権問題は今年、新型コロナ情報統制や香港も加わり、一層“複合汚染”状況になった。先ごろ開かれた国連人権理事会(47理事国)では、中国批判派と支持派が厳しい共同声明合戦を展開した。世界の人権戦も正念場を迎えている。

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元嘉悦大学教授 山田 寛  

 6月末からの理事会新会期に、英、独、仏、日、豪、カナダなど27カ国が、香港と新疆ウイグル情勢を強く懸念、批判する共同声明を提出した。

 また理事会から任命されて調査活動に当たっている国連人権専門家(特別報告者、特別代表など)のうちの50人も、現地アクセスをろくに認めない中国を非難する声明を発表した。

 だが中国側は、より多数の参加国の共同声明(ウイグル問題では46、香港については53カ国)を出して逆襲した。「3年来、新疆ではテロがゼロ。住民の安全、安定、人権が回復された」「国家安全法で香港の安全を守る。1国2制度は続く。外国は介入するな」という中国の主張を全面支持する内容だった。中国の外務省とメディアは、53対27というダブルスコアを強調、声明合戦の勝利を誇った。(昨年の声明は中国批判派22対支持派50だった)

 27カ国に米国は入っていない。米国は一昨年、人権理事会を離脱してもいる、インド、韓国、そして中国の大経済協力とマスク援助外交のお世話になっているイタリアなども加わらない。

 53カ国には、北朝鮮、キューバ、ベラルーシなど独裁・全体主義・共産主義・人権抑圧クラブに加え、根っからの同志ではない“スイング国家”が多い。43カ国が中国の「一帯一路」計画に参加、アフリカ諸国の多くが対中債務支払い軽減交渉に期待をかけている。マスク外交効果もある。

 米ネットメディアの「アクシオス」で、ケイト・ハーパー元同理事会米代表は、支持声明参加国集めのため、「中国は信じ難い圧力を加えている」「やはり米国の理事会離脱で、力のバランスが劇的に中国有利に傾いてしまった」と嘆いている。

 中国支持国数も急増までは行かない。だが、現在の世界で強権指向がじわじわ広がり、共同声明参加国数の差に反映されているのは確かだ。

 中国は人権理事会が発足した2006年から昨年まで、中断はあるが理事国を続けてきた。習近平時代となり、近年、自国防衛に加え、世界制覇戦略の一環として、世界の主権と人権の問題を中国的規範(「国の安定と経済発展こそが第一の人権尊重。欧米の価値観とは異なる。内政干渉絶対反対」)に転換するべく、活動を強めている。

 4月、大きなカードも手に入れた。理事国は2期6年務めたら一旦(いったん)休まなければならない決まりなので、今年は理事国ではない。だが国連代表部公使を、新たな人権専門家の選定などに当たる重要な理事会諮問グループ(5人)にしっかり送り込み、公使は同グループ議長になった。特別報告者らの調査は国連人権活動の土台だから、中国が選定を主導し親中国人間ばかり選んだりしたら大変だと人権団体は懸念したが、実際、もうそんな人選が始まっている。

 中国はまた、NGOの国連協議資格を審査するNGO委員会のメンバーでもあり、気にくわない人権NGOなどに“意地悪”もできる。中国はこうした面でも、力を及ぼす態勢をしたたかに作っている。

 トランプ米国の対中バトルは激しい。だが人権分野こそ、自由主義陣営が団体戦で戦うべきだろう。人権理事会の綱引きで懸命に抗している国々とスクラムを組み、“スイング国家”を引き寄せる大作戦を展開し、中国的人権規範の拡大を食い止めるべきと思われる。

(元嘉悦大学教授)