秋田県の「探究型授業」をタイに発信し交流を

5年間にわたり「教育資産を活用した海外交流促進事業」

 小・中学校の全国学力・学習状況調査でトップクラスの成果を続けている秋田県は「探究型授業」をタイに発信し交流を深めようと、平成27年度から5年間にわたり「秋田の教育資産を活用した海外交流促進事業」を続けている。県の教員関係者延べ65人をタイに派遣し地元の教師と授業づくりをする一方、タイの教育関係者ら多数が秋田の小・中学校などを視察。また、タイでは教員延べ850人以上が同授業の研究会に参加した。大学での教員研修も実施しており、タイでは今後、この授業方式を広く教育現場に根付かせたいとしている。(伊藤志郎)


教育専門監と指導主事らを派遣、地元教師と授業づくり

 小・中学校の全国学力・学習状況調査で、秋田県は毎年、全国トップクラスの結果を出し続けている。その根幹をなすのが「秋田の探究型授業」(Akita Action、以下AA)だ。

 県では海外交流促進事業を展開する中で、タイの教育関係者と出会い、AAを通しての教育連携と交流を進めてきた。

 事業では、タイの研究協力小・中学校4校に県の教育専門監と指導主事ら延べ65人を派遣。タイの教員と共に、グローバル社会に対応した授業モデルの構築を目指し、国語(タイ語)、算数・数学、理科の授業づくりに取り組んだ。

 28年度は教員と教育関係者15人がタイを訪問。翌年度以降はタイの教員が主に授業を進め、県の教師が補助するチームティーチング方式で授業を深めている。

秋田県の「探究型授業」をタイに発信し交流を

タイの研究協力校プラチャ・アッパサム小学校で現地の教師と授業を行う秋田県の教師=2019年8月、タイ王国ノンタブリー県(「教育あきた12月号」より)

 昨年10月に秋田を訪れたプラチャ・アッパサム小学校のパニーダ校長は「AAを導入して3年目になります。先生方が授業の進め方に慣れてきて、授業中は児童が進んで意見を出したり質問するなど、素晴らしい光景が見られます」と語った。

 タイにおいては、県が直接的な研究協力を行ってきた小・中学校は4校だが、地元の教員による授業提示と授業研究会を行う「秋田アクションセミナー」は5回実施され、延べ850人以上のタイの教員が参加。昨年8月には、タイ教育省教育審議会主催の学術フォーラムで、秋田県の米田進教育長(当時)が「タイにおける秋田アクションプロジェクトの進展」について講演し、タイの教育関係者に広く印象付けた。

相互交流で国際感覚醸成や修学旅行などのインバウンドも

 一方、タイの教育関係者も4度にわたり秋田の小・中学校の授業参観や共同研究協議会などに多数参加。事業の関連も含めると、タイの24機関から約240人が秋田県を訪れている。北秋田市内の小・中学校を視察した時は、給食の時間にも交流し、授業だけでなく、教育活動全般に触れた。

 昨年10月には、タイの連携教育機関の関係者が佐竹敬久知事を訪問。そこでトゥラキット・バンディット大学のチャラムチャイ博士は「秋田県教育委員会には、AAを通してタイの教育の課題に気付かせてもらいました。大学では現役の教員を対象にAAについて研修も行っており、今後も秋田県から協力をいただきたい」と述べた。

 また、ノンタブリー県第1地区初等教育局のノッポーン教育局長は「訪問した秋田県の学校は、いずれも素晴らしかった。今後はAAをノンタブリー県全域に広げて根付かせていきたい」と抱負を語っている。

 ここまでは義務教育課の取り組みだが、高校教育課でもタイとの交流を実施。スーパーサイエンスハイスクール(SSH指定校)の生徒がタイの高等学校を訪問し、英語で課題研究の成果発表を行い、生徒宅でのホームステイ体験や、史跡・寺院訪問などの異文化体験学習に臨んだ。また秋田県へのタイ交流校の教育旅行を受け入れており、県内高校生とは日本文化体験などで交流を温めている。

 この動きは県内に広がりつつある。タイの教育委員会や学校と教育連携に係る協定などを独自に結ぶ市町村が増え、児童生徒や地域住民との交流が増えた。また一連の事業を通して、秋田県の教員の指導力向上や国際感覚の醸成、生徒の英語コミュニケーション能力やグローバル感覚の育成、さらには教育視察・修学旅行などのインバウンドにもつながり始めている。