海兵隊、米海軍と洋上での初のサイバー防御訓練

サイバー空間や電磁波の領域で強化する在沖米軍

 沖縄を拠点とする米海兵隊、第3海兵遠征軍(3MEF)傘下の第31海兵遠征部隊(金武町)は今年4月上旬、初めて洋上でサイバー防御訓練を行い、米海軍との連携も確認した。米国は、サイバー空間や電磁波の領域で、21世紀に新たな覇権争いが起こると見て、体制を強化している。中国と対峙(たいじ)する在沖海兵隊のサイバー防御能力の向上は、日本の安全保障にとっても極めて重要だ。(沖縄支局・豊田 剛)


受動的でなく先行的に、多国間演習で日本とも協力確認

 新型コロナウイルス感染の世界的な拡大により、米軍は数多くの演習の中止または延期を余儀なくされているが、そのようなさなかに在沖海兵隊が南シナ海でサイバー防御訓練を行った。

海兵隊、米海軍と洋上での初のサイバー防御訓練

コンピューターの配線に異常がないか確認する隊員ら(米海兵隊提供)

 訓練を行ったのは第31海兵遠征部隊の「防御的サイバー作戦・内部防衛策」(Defensive Cyberspace Operations-Internal Defensive Measures=DCO-IDM)中隊。同中隊はサイバー防御に当たる複数のチームからなる3個小隊で構成されており、在沖海兵隊では、第7通信大隊(キャンプ・ハンセン=金武町)の指揮下にある。通常は、全てのオペレーティングシステム(OS)、ネットワーク機器、サーバー、ソフトウェアに習熟し、2チームに分かれて、他チームの侵入からネットワークを守る訓練をして実戦的な感性を養ったり、ネットワーク上の大量のデータを収集したり、普段と異なる動きや攻撃の兆候を見つけ出す訓練を行っている。

 洋上での実動訓練は今回が初めてで、米海兵隊の主力艦艇、佐世保所属の強襲揚陸艦USS(4万5千㌧)が使われた。DCO-IDMのアダム・コシアノフスキ訓練隊長(少尉)によると、洋上での在沖海兵隊と海軍との連携確認も訓練目的の一つで、双方のネットワークを統合し、敵対者の悪意ある行動や侵入から守ることに主眼を置いた。

海兵隊、米海軍と洋上での初のサイバー防御訓練

サイバー訓練を指揮したコシアノフスキ少尉(米海兵隊提供)

 今回の演習の大きな特徴は、単なる防御ではなく、先行的な攻撃型の訓練だったことだ。コシアノフスキ氏は「21世紀の初頭は、サイバー空間で海兵隊が争いに巻き込まれることはなかったが、今後起こり得る争いに備えて強固なサイバー防御能力を構築する必要がある」と強調。「中隊では、悪意ある侵入者を追跡し、ネットワークの情報・監視・偵察(ISR)能力を駆使して敵の拠点までさかのぼることが可能だ」と語った。

 考えられるシナリオは「敵がネットワークを盗むかエクスポートし、データ操作や破壊のために悪用する」ことだとしながら、「怪しい動きはリポートにまとめ、データを蓄積して分析に活用し、日々の活動にフィードバックする」と述べた。

 システム担当のウリス・ヴィレガス2等軍曹は、「何か異常が探知されてから受動的に対応するのではなく、先行的に米軍のネットワークを防御するのがわれわれの役割。敵の視点でネットワークを観察し、敵が行動する前に対処することでダメージを確実に軽減できる」と作戦の特徴を語ってくれた。

 第31海兵遠征部隊広報企画運用部のデモンド・グローバー中尉は、今回の訓練について「洋上パトロールをしながら海軍司令官と協同し、米軍のネットワークを守るためのベストな訓練を共有できた」と強調。サイバー防御者が直面する課題について、「権限のないネットワークにアクセスする脅威のあいまいさ」と「ハッカー攻撃者は一度だけ成功すればいいが、防御側は毎日成功しなければいけないこと」だと語った。

 今回の洋上訓練に先立ち、在沖海兵隊は米国とタイが共催する多国間軍事演習「コブラゴールド」にも参加した。タイに加え日本、マレーシア、インドネシア、シンガポールの軍関係者と情報交換や訓練を行い、仮想敵国とのサイバー戦における弱点を特定しながら、各国で協力する体制を確認したという。

 日米両国は昨年4月、日本がサイバー攻撃を受けたとき、日米安全保障条約5条に基づき、米国が対日防衛に当たる義務が生じることを確認。米陸軍は昨年、自衛隊と合同でサイバー作戦演習を行った。

 世界中が新型コロナへの対応に追われる中でも、中国は空母「遼寧」など艦艇6隻が宮古島海峡を通過(4月11日)したり、尖閣諸島沖での領海接近・侵入を繰り返したりするなど、挑発を強めている。通常の軍事演習に加え、サイバーや電磁波、宇宙空間での日米連携の強化は一層必要になっている。