存在脅かされる先住民 ブラジル
コロナ禍と乱開発の波
ブラジルに住む先住民の多くは、アマゾン熱帯雨林やブラジル南西部など、森林地帯に近い広大な保護区で伝統的な生活様式を守りながら生活している。部族の中には、アマゾン熱帯雨林の奥深くでいまだ近代文明と接触したことのない「未接触部族」がいることも確認されており、世界的にも貴重な存在だ。だが、乱開発と森林伐採が保護区で深刻化していることに加え、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)により、「絶滅の危機」も懸念されるほどになっている。(サンパウロ・綾村 悟)
「未接触部族」絶滅の危険性
昨年1月に就任したボルソナロ大統領は、選挙中から一貫して経済優先を主張し、アマゾン熱帯雨林や先住民保護区の開発を約束してきた。就任後は、先住民保護区内にある豊富な資源の開発を政策に取り入れ、アマゾン熱帯雨林の保護を求める諸外国や環境保護団体に対しては、「アマゾンはブラジルのものだ」などと反発してきた。
ボルソナロ氏は、国立先住民保護財団(FUNAI)やブラジル環境・再生可能天然資源院(IBAMA)への予算を大幅に削減した。環境保護の要であるIBAMAの予算削減は、違法伐採を監視する要員が不足する事態を生み、結果として、昨年のアマゾン熱帯雨林の森林消失は記録的な数字を記録するまでに悪化した。
アマゾン熱帯雨林における監視活動の減少は、先住民族が住む森林内の保護区に、違法伐採業者や採金業者などが入り込む機会を与えることになった。武装した違法業者らによって、先住民や環境保護活動家が危害を加えられたり、殺害されるケースも増えている。
今月初めには、先住民保護区の一部を違法業者らが自分の土地として裁判所に申し立てることを可能にする改正先住民法が施行された。対象となるのは、先住民が先祖伝来の土地だと主張しているが、最高裁などがいまだ判断を示していない土地だ。そうした土地は、アマゾン熱帯雨林内に237カ所存在し、総面積は980万平方㌔にもなる。北海道(約830万平方㌔)を超える巨大な土地が違法開発の危機に直面しているのだ。
ブラジルの先住民族団体や弁護士団体などが改正法に強く反対しているが、コロナ禍の最中ということもあり、メディアや世論の反応が鈍いのが現状だ。
一方、以前より懸念されていたのが、違法伐採業者ら外部の人間が持ち込む感染症の危険性だ。
ブラジルには約85万人の先住民が住んでいるが、その多くは、郊外や森林の中に先住民保護区と呼ばれる居住地を与えられている。外部社会と交流する機会が少ないため、伝染病に弱く、1970年代には麻疹の流行などで多くの命が奪われた。
ブラジル先住民連合(APIB)によると、3日までに保護区内に住む先住民18人が新型コロナが原因で死亡した。先住民保護区は、法律で厳しく先住民以外の立ち入りが禁止されており、通常は酋長(しゅうちょう)の許可なくして立ち入ることはできない。
また、アマゾン熱帯雨林に住む先住民にも感染が広がっており、これまでに107人の感染が確認された。そのうち57人は、通常の交通手段ではたどり着くことのできない熱帯雨林の深部に住む先住民だという。
さらに、先住民の中には、アマゾン熱帯雨林の奥深くに住む未接触部族と呼ばれる部族も存在する。旧石器時代そのままの生活を送り、近代文明との接触が全くないだけに、インフルエンザが蔓延(まんえん)するだけで、部族が絶滅する可能性もあると言われるほどだ。
今回、世界でパンデミックを起こしている新型コロナは、感染力が強く重症化率も高い。先住民の居住区は、医療システムが十分に整っていない場合も多く、まさに「絶滅の危機」に直面していると言っても過言ではない。
こうした中、「ジェネシス(創世記)」などの代表作で知られる著名ブラジル人写真家セバスチャン・サルガド氏が、ボルソナロ大統領に「コロナ禍で先住民が絶滅の危機に瀕(ひん)している」として、支援を求める書簡を公開した。書簡には、歌手のポール・マッカートニーさんや俳優のシルベスター・スタローンさんら多くの著名人が署名し、注目を集めている。






