韓国総選挙で北朝鮮が親北政党に肩入れか

 北朝鮮が対韓国宣伝メディアなどを通じ4月実施の韓国総選挙で巻き返しを図る保守系野党を連日のように批判している中、一方で親北反米色が濃い革新系野党・民衆党に肩入れするのではないかとの指摘が上がっている。同党の議席を拡大させ、韓国政界で親北派の基盤を一層強化させるのが狙いとみられる。(ソウル・上田勇実)

30年ぶり民衆党復活
米韓同盟反対 過去に資金収受

 「今回の総選挙に導入される準連動型比例代表制はわれわれにとって有利。政党支持率3%を獲得すれば比例で4議席となり、現在の地域区1議席を守れば合わせて一挙に5議席だ」

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比例代表候補らの写真を並べ、比例議席獲得への協力を促す民衆党の選挙ポスター(上田勇実撮影)

 総選挙の見通しについて民衆党関係者はこう述べた。

 同制度は比例議席数の多くを地域区議席数と連動させるため、比例区重視の小規模政党が議席を伸ばしやすいと言われる。昨年末、与党・共に民主党は関連法案を強引に通過させた。選挙後にこれらの政党と事実上の連立を組み、北朝鮮との連邦制統一などをにらんで改憲に必要な3分の2議席を確保するためではないかとの臆測も広がっている。

 同党は約30年前、同名の政党として韓国に実在した。表向きは労働者や農民が中心となって政治勢力化を図り、民衆の利益を追求することがうたわれた。だが、韓国公安筋は背後に北朝鮮の存在があったと断言する。

 「1990年代初め、韓国内に合法的な北朝鮮前衛政党を建設せよとの指令が出され、対南工作機関の社会文化部(現、文化交流局)には政党指導課が新設された。実際に韓国に派遣された北朝鮮のスパイがその結党に関わり、同党から総選挙に立候補した18人に総額7900万ウォン(約733万円)を選挙資金として援助したことが分かっている」

 結局、同党は一議席も獲得できず、その後解散したが、その流れをくんで民主労働党や統合進歩党が誕生。北朝鮮はこれらの結党に肩入れする指令を何度も出し、実際に有識者のオルグや国会・与党の要職への就任、選挙資金供与などの事実が発覚した。2011年に摘発されたいわゆる旺載山(ワンジェサン)スパイ事件である。

 統合進歩党は内乱煽動(せんどう)罪などで有罪判決を受けた李石基議員(当時)の事件を機に14年末、憲法裁判所から解散命令を受けたが、同党幹部らが17年に立ち上げたのが現在の民衆党だ。別の公安筋は「根っこは完全に同じで30年前の民衆党の復活版」であり、「北はどのような形であれ支援しようとするはず」と警鐘を鳴らす。

 同党は昨年6月、トランプ米大統領の訪韓に反対するデモを行ったり、防衛費分担金問題でハリス駐米大使に抗議するためソウルの米大使館に侵入する事件を起こすなど反米運動の激しさが際立つ。総選挙の2大スローガンの一つも「韓米同盟破棄」。日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)にも反対だ。

 こうした民衆党の性格を北朝鮮による韓国地下党工作に関わった後、転向した金永煥氏は「最も強硬な主体思想派だ」と指摘する。

 今月3日、同党選挙対策委員会の発足式には過激な反保守・反米デモで有名な全国民主労働組合総連盟(民主労総)のトップが出席し、組合として選挙人団に加わると表明した。

 「3%獲得は容易ではないが、それに必要な組織票固めへ民主労総トップの一言は大きい。地域区では与党に入れても比例では民衆党に1票入れてくれるのではないか」

 同党関係者は総選挙への期待を膨らませていた。