中国の次の狙いは台湾、沖縄 台北駐那覇経済文化代表処 范振國処長

台北駐那覇経済文化代表処 范振國処長に聞く

対岸の火事ではない香港情勢

台湾の民意形成に影響、沖縄と日本の安全保障に直結

 台湾の総統選挙と立法委員(国会議員)選挙まであと1カ月となった。香港情勢が台湾の民意形成に大きく影響している。香港と台湾の情勢は沖縄と日本の安全保障に直結する問題だ。台北駐那覇経済文化代表処の范振國処長に総統選の行方や香港の大規模デモが与える影響について聞いた。(聞き手・豊田 剛)

経済発展へ沖台協力で魅力ある商品開発を

IT、バイオ技術で投資の受け入れに期待

 ――台湾総統選と立法委員選挙が1月11日に行われる。どのような情勢か。

中国の次の狙いは? 対岸の火事ではない香港情勢

台北駐那覇経済文化代表処 范振國処長

 総統選には3氏が出馬する。各種世論調査によると、現職で民進党の蔡英文氏が優勢だ。台湾の選挙は常に、中国との両岸関係に左右されている。台湾は中国とより親しくして経済依存をより強めるのか、あるいはその反対かという選択になる。独立か統一かという複雑な要素も絡み合う。

 それに加え、米国や日本を含めたアジア諸国の情勢などの国際的な要因が大きく影響する。確かなことは、どの陣営が勝利したとしても、台湾は民主主義、自由、法治を尊重する成熟した民主主義国家であることには変わらない。

 ――選挙が近づくにつれ、中国の動きが気になる。

 選挙前はもちろんのこと、台湾は常に大陸の圧力を受けている。大手メディアが中国資本に買収され、世論を操作している。親中の陣営に勝ってほしいため、観光客を台湾に行かないようにしたり、台湾からの輸出品に規制をかけるなどさまざまな手段を行使し、経済に打撃を与えている。また、世界保健機構(WHO)や気候変動枠組条約(UNFCC)にこれまでオブザーバーとして参加していたが、4年前に民進党が政権を取って以来、参加できなくなった。台湾を国家として認めないように圧力をかけるもので、国際的な政治圧力だ。個別の企業への圧力も露骨だ。商品に「台湾は中国の一部」と明記しないと処罰を与えている。

 ――香港の大規模デモを台湾はどのように受け止めているか。

 香港の民衆によるデモはかつてないほど長期的で激しいものだ。デモの本質は、香港市民はこれまでずっと慣れ親しんできた民主自由法治の現状を守りたい、一国二制度を絶対に譲らないというもの。1997年に施政権がイギリスから中国に返還された際、50年間は一国二制度を維持することが約束されていた。政治体制、選挙制度、金融などは変わらないはずであるが、中国はその期限の半分にも満たないうちに制度を変えて香港を支配しようとしている。

 デモの直接の引き金となったのは逃亡犯引き渡し条例だ。中国の体制に批判的な人が中国に引き渡されたらどうなるだろうか。中国の司法体制は不透明であり、健全ではない。

 台湾の人々にとっても他人事ではなく、大きく影響する。台湾でも一国二制度を支持する人々がある程度いたが、これが幻想であることが証明された。中国を信じてはいけないと多くの人が気付かされた。

 中国の意図は明らかだ。香港を支配下に収めた次の狙いは台湾だ。習近平国家主席は「近い将来、台湾を中国の一部にする」と宣言した。中国と台湾だけの問題ではない。中国は第一列島線を破ろうとしているが、万が一、台湾が中国の一部になれば、沖縄の海が危ない。民主陣営の日台が力を合わせて共産化を防ぐ役割がある。台湾海峡が中国の内海になってしまえば、日本の船舶は大きく迂回(うかい)せざるを得なくなり、経済的に致命的な打撃を受ける。

 経済、安全保障の両面で台湾と日本は密接な関係にある。香港の問題は沖縄にとって決して対岸の火事ではない。

 ――日本に対して、具体的な要望は。

 具体的に、三つの要望がある。一つ目はCPTPP(包括的および先進的な環太平洋パートナーシップ協定)。台湾の貿易相手トップ10の4カ国が入っている。台湾の加盟を支持してほしい。

 二つ目は南アジアに目を向けること。台湾は「新南向政策」を国家政策として打ち出し、中国一極ではなく、東南アジアに目を向けている。企業間の協力を積極的にやり、ウィンウィンの関係をつくりたい。

 三つ目は国際規模の問題。国連が定める持続可能な開発目標(SDGs)があるが、世界規模の課題を日本と共に達成したい。ただ、中国の影響で台湾が国際組織から排除されている。人類の保健・衛生、気候変動、民間航空など、政治と関係のない分野で台湾が貢献するには日本の支持が必要だ。

 ――沖縄との関係ではどうか。

 観光産業は、韓国との関係で明らかなように、不確定要素が多くリスクのある産業である。観光客の数を追い求めるだけではなく、安売り競争の罠に陥らないように質を上げることが大切だ。魅力ある土産開発には、沖縄の素材と食品加工やアイデア商品に強みがある台湾とタッグを組んで、魅力ある商品を生み出すことができる。こうした取り組みは沖縄の経済発展につながると思う。

 また、IT、バイオテクノロジーなどの分野を中心に沖縄への投資の機会を求めている。自立型経済構築を目指す沖縄県は2次産業に乏しい。沖縄は地理的に近く、景気がよく、経済特区の優遇措置がある。沖縄で製造すれば、「メイド・イン・ジャパン」の付加価値が付く。沖縄県は台湾企業を誘致するために、魅力的な条件を提示してほしい。


=メモ= 范 振國(はん・しんこく)

 台湾新竹県出身。台湾大学卒業後、九州大学大学院で経営管理修士号を取得。外交部アジア太平洋局日本政治科課長、台北駐那覇経済文化代表処部長、台湾日本関係協会副秘書長などを歴任し、現在に至る。