同盟軽視のトランプ政権
米コラムニスト ファリード・ザカリア
失われる米国の指導力
国際社会の規範を拒否
弾劾問題が話題をさらう中で、外交をめぐる問題が見逃されている。今後、弾劾と同様に重要な課題となる可能性がある。トランプ政権は、単独行動主義、孤立主義政策を重視している。それによって、米国の指導力が失われ、世界は不安定化している。
米国と韓国の間の交渉が19日、決裂した。トランプ政権は、米軍駐留経費の韓国側負担の400%増を要求していた。年間の駐留経費は約20億ドル。韓国政府は、その半分弱を支払っている。トランプ大統領は、47億ドルを要求した。
トランプ氏は、最も近い米国の同盟国の一つとの関係を壊す一方で、北朝鮮の金正恩氏への思い入れは変わっていない。米韓合同軍事演習がまた中止されたが、北朝鮮は今年に入って24発のミサイルを発射している。すべて国連決議違反だ。トランプ氏は17日、北朝鮮の独裁者との再会を求め、「すぐに会おう!」とツイートした。北朝鮮から返ってきたのは非難だった。北朝鮮当局者は、米国との「無意味な」会談に興味はないと語った。
◇駐留費の負担増要求
韓国との関係悪化は、太平洋地域で最も信頼できる米国の同盟国、日本との間でも繰り返されるようだ。日本に対しても、米軍駐留費負担の大幅増額を要求していたことが報じられた。米兵が韓国、日本から撤収すれば、その米兵は国内に配属されることになる。韓国政府からも、日本政府からも費用の負担や貢献は一切なくなる。トランプ氏は、軍を増強している。これらの米兵を復員させたり、軍を縮小したりするつもりがないのなら、アジア太平洋地域への前方展開は戦略的にも、経済的にも意味があることだ。
トランプ氏はあらゆるところから突然、手を引いている。中東でそれを実行し、ひいきにしている独裁者、サウジアラビアのムハンマド皇太子、トルコのエルドアン大統領に外交で譲歩した。シリア北部からの米軍撤収によって、トルコはシリア内の広大な土地を手に入れ、ロシア、イラン、アサド政権を勢い付かせた。共和党上院議員らは、シリアのクルド人を見捨てたとトランプ氏を非難した。クルド人勢力はIS掃討での米国の同盟相手だ。クルド人は、過激派組織「イスラム国」(IS)との米軍主導の戦いを支援し、1万人が命を落とした。非難を受けるとトランプ氏は、エルドアン氏が、クルド人勢力は本当はテロ組織だと主張するプロパガンダ動画を上院議員に見せることを容認した。
トランプ政権は、さまざまなところで受け入れられている規範や価値観を支持することをやめた。国連人権理事会から引き揚げ、中国、サウジのような国に譲ってしまった。人権団体「全米市民自由連合(ACLU)」は、トランプ政権が米国内の国際人権監視団体との協力をすべて停止したと非難した。関税は自由貿易体制を揺るがした。修復は恐らく不可能だ。18日には、イスラエルの入植地建設は国際法違反とする以前からの米国の立場を逆転させた。
◇NATOは脳死状態
フランスのマクロン大統領は、北大西洋条約機構(NATO)は「脳死」状態だと述べて非難された。一方、エコノミスト誌との思慮に富むインタビューで、トランプ氏のシリア政策は、NATO同盟国との調整がなされないまま実施されたと指摘した。欧州の中東への関心は米政府よりも強いかもしれない。欧州は難民であふれたが、米国には及んでいない。しかし、トランプ政権は、大西洋の対岸の同盟国に情報を提供していなかった。
マクロン氏はトランプ氏に関して、欧州はかつてない困難に直面していると主張、「欧州の取り組みに理解を示さない米大統領に初めて遭遇している」と訴えた。トランプ氏はイスラム・テロからの欧州防衛にも距離を置くことがあると指摘、「話していることは、米国の問題であり、欧州の問題ではない。…注意深く聞かなければならない。米国のために予算を出し、安全保障体制を確保する用意はもはやない。『目覚めよ』ということだ」と述べている。欧州の人々がイスラム・テロとの戦いで孤立を感じていることは、皮肉であり、悲劇だ。NATOが唯一、(集団的自衛権の発動を認めた)第5条を発動したのは、ニューヨークとワシントンでの同時多発テロの時だった。
イラン、ロシア、中国はならず者国家だとよく言われる。米国が築き、75年間守ってきたルールに基づく国際的制度を破壊しているからだ。確かに、これらの国々は自由と責任を伴わない行動を取ってきた。しかし、現在の自由な国際秩序への最大の脅威は、トランプ政権だ。組織的に、平和と安定を維持してきた同盟を弱体化させ、国際社会での基準を定めることに貢献してきたルールと規範を拒否している。
(11月22日)