野党の「統一候補」戦略は怖い

“驕り”で長期政権に北風も

髙橋 利行

政治評論家 髙橋 利行

 八百万の神々が在(おわ)す日本のことだから、永田町に「選挙の神様」がいたとしてもなんら不思議はない。戦前、政友会が定数466中304議席を獲得した選挙(1932年)を主導した辣腕(らつわん)・松野鶴平(のちに参院議長)は、まさにそういう存在だった。20年後、今度は吉田茂の側近として「抜き打ち解散」(1952年)を進言してもいる。選挙の読みは抜群だった。田中角栄や竹下登、小沢一郎も、一時、そう呼ばれたが、この「松野ズル平殿」の足元にも及ばない。

 今、自民党ではバッジこそ付けていないが、久米晃(元事務局長)が「選挙の神様」(評論家・屋山太郎)と呼ばれ、いつ解散・総選挙があるかと怯(おび)えている面々が日参している。

 久米晃の話だと、国政選挙が迫ると、各党が政策や政見を掲げ、メディアが党首討論などを行うが、有権者は与野党の政策を読み比べたり政見放送に耳を傾けたりして投票先を決めることなどはしないのだという。ほとんどの有権者は、まず「政権の是非」を選択し、「是」とする者は自民党に投票し、「非」とする場合に初めて「野党」への投票を考えるのだそうである。

 その時に、野党の受け皿が満足に整っていようがいまいが、自民党政権に駄目という烙印(らくいん)を押したら、とにかく野党に投票するか、あるいは棄権する。だから、野党が「新党」をつくるか、「統一候補」を擁立するようならコトは重大である。「オール野党」の票を単純に合算すると与党を凌(しの)ぐ選挙区がかなりあるからである。前回の衆院選(2017年)を基にしたシミュレーションによれば「自民党の64議席減」という衝撃的な結果も出ている。そこまで減らないまでも20から30議席は減るというのが大方の読みである。

 立憲民主党、国民民主党、社民党、れいわ新撰組という野党陣営の後ろで「手を組めば安倍晋三政権を倒せる」と発破を掛けているのは、言わずと知れた小沢一郎である。最近は「仏頂面」が嘘(うそ)のような「笑顔」を見せ、メディアともよく会うという。「年内に新党をつくる」「(イタリアで政権を握った中道政党と左派政党の連合である)オリーブの木のような曖昧なものではない」と気勢を上げてもいる。女性が髪を切るのは心境の変化を意味すると言われるが、小沢一郎の「笑顔」は何を意味するのか。

 今の段階で、小沢一郎が画策している「年内新党」の可能性は低い。だが、「新党」は難しくとも、何かと角を突き合わせている立憲民主党と国民民主党の「棲(す)み分け」は、国政選挙を重ねたことで随分進んでいる。現職を優先し、現職がいない選挙区でも「得票」の多かった候補者を優先すれば、血で血を洗う「身内の争い」はなくなる。共闘体制には入らない共産党は、野党候補に当選の芽があれば自前の候補は擁立しない。俗にいう「身を捨ててかかる戦略」である。上手くいくようなら、期せずして「野党統一候補」が現出する。一騎打ちになると与党も油断はならない。

 国政選6連覇を果たし、戦前戦後を通じて宰相在任最長記録を誇っていた桂太郎を抜いた宰相・安倍晋三が、あろうことか、「桜を見る会」の杜撰(ずさん)な運営を衝(つ)かれ、突然、躓(つまず)いた。長期政権の驕(おご)りというものなのか。公職選挙法、政治資金規正法には抵触しないとしても世間の評判は悪い。

 このボディブローは効いている。永田町に流れている、通常国会(2020年)冒頭に解散に踏み切るというのも、この情勢では冒険過ぎる。信頼を取り戻すには時間がかかる。北方領土返還、拉致被害者の生還に加えて、悲願である憲法改正の発議に要する衆参各院の3分の2というハードルは高い。

 政権を失うことはないにしても自民党に冷たい北風が吹き始めたのかも知れない。

(文中敬称略)

(政治評論家)