「実績作り」急ぐトランプ氏、共和党との結束に苦心
大統領選が近づく中、トランプ氏は「実績作り」に動き始めている。先月のシリアからの米軍撤収もその一つとみられる。
「米国の戦闘部隊は、古代から続く宗派紛争の中心にいるべきではない。われわれの兵士を国に戻そう」
先月中旬にテキサス州ダラスで行われた選挙集会で、トランプ氏が呼び掛けると、会場からは大きな拍手と共に「USAコール」が沸き起こった。
選挙公約であった「終わりのない戦争」からの撤退を訴えるメッセージは、聴衆が最も盛り上がるこの日の演説の山場となった。超党派の議員や外交専門家から批判を浴びたシリア撤退は、少なくとも熱烈な支持者からは共感を得ている。
支持の背景にあるのは、米国で広がる「厭戦(えんせん)ムード」だ。
7月の米調査機関ピュー・リサーチ・センターの調査によると、退役軍人のうち64%、米国人全体の62%がイラク戦争は戦う価値がなかったと回答。アフガニスタンでの戦争についても、退役軍人の58%、米国人全体の59%が戦う価値がなかったとした。シリアへの米軍関与についても、米国人全体の58%がその価値がないとした。トランプ氏が各方面からの反対が予想されながらも、シリア撤退を強行したのは、こうした世論があるからだ。
しかし、このシリア撤収には、民主党だけでなく、共和党議員からも批判が噴出した。
「シリアからの米軍撤収は重大な戦略的ミスだ」。これまでトランプ氏と基本的に足並みを揃(そろ)えてきた共和党上院トップのマコネル院内総務は先月20日付のワシントン・ポスト紙で異例のトランプ批判をした。イラクからの撤退により過激派組織「イスラム国」(IS)の台頭を許したオバマ政権の失敗を繰り返す可能性があるとし「感情ではなく、国益に導かれ続けなければならない」とたしなめた。
ウクライナ疑惑に加え、トランプ氏の所有するリゾート施設での先進7カ国首脳会議(G7サミット)開催構想でも身内からの批判に直面したトランプ氏は「共和党はもっとタフに戦わなければならない」と訴えるなど、結束を維持させることに躍起だ。
ただ、トランプ氏と共和党議員の間で生じ始めた不協和音が同氏の弾劾や大統領選に影響することは、これまでのところ限定的ともみられる。
選挙専門家のチャーリー・クック氏は「多くの問題で、共和党議員がトランプ氏に反対する余地はあまりない。その議員が再選に臨む際に、その批判が挑戦をもたらすからだ」と指摘した。
各種世論調査でトランプ氏には共和党支持者から9割近い高い支持率を保っている。共和党議員たちは、トランプ氏に反対の立場を強めることで、選挙区の予備選でトランプ氏に近い立場の候補者から挑戦を受けるリスクを冒すことになる。クック氏は、特にトランプ支持層の関心が高い内政問題やトランプ氏の個人的な行動への批判については、共和党議員の口は重くなるとする。
ISの再台頭は依然として懸念されるものの、最高指導者バグダディ容疑者の殺害によって政治的得点を稼いだことは、トランプ氏にとって追い風となり得る。ただ、大統領選に向かう中、今後もトランプ氏が共和党議員の反対を押し切る形で独自の外交政策を推進する可能性があり、目が離せない状況が続く。
(ワシントン・山崎洋介)






