米大統領選まで1年、異例の広告戦略で支持層の拡大に動く

米大統領選まで1年 トランプ政権の攻防(上)

 2020年の米大統領選(11月3日投票)まであと1年。再選を目指すトランプ大統領は、すでに選挙戦に本腰を入れて取り組みだした。一方、4年ぶりの政権奪還を目指す民主党は来年2月の予備選に向け候補者たちが早くも熱戦を繰り広げている。
(ワシントン・山崎洋介)

トランプ米大統領

メキシコ国境の「壁」を訪れたトランプ米大統領。「不法移民を半分に削減」と政権の移民対策をアピールしている(トランブ陣営のテレビCMから)

 「彼はいわゆる『ナイス・ガイ(いいやつ)』ではない。だが、ワシントンを変えるにはドナルド・トランプが必要な時がある」

 2300万人以上が視聴した先月30日の米大リーグ・ワールドシリーズの最終戦のテレビ中継の合間に、こう訴え掛けるCMが流れた。トランプ陣営によるこのCMは、大統領選まで1年以上残すこの時期としては前例のない規模の広告戦略として注目を集めた。

 このCMは30秒間のもので、前半は「600万人の新しい雇用を創出し、不法移民を半分に削減。『イスラム国』(IS)を壊滅させ、リーダーを殺害した」などとこれまでの成果を並べ立てアピール。後半では、ペロシ下院議長ら民主党幹部の写真を映し出し、彼らは「真の課題」に取り組むのではなく、「弾劾と偽の調査」に焦点を合わせているとこき下ろした。

 このCMは、人格には難があるもののタフで実行力があるトランプ氏のイメージを前面に出し、「何もしない民主党よりまし」と思わせることを狙ったものだ。特にトランプ氏の言動に抵抗を感じつつも、弾劾には否定的な有権者をターゲットとしている。

 この戦略には、数字による裏付けがある。ニューヨーク・タイムズ紙などが先月30日に発表した世論調査によると、フロリダやミシガン、ペンシルベニアなど接戦が予想される6州で、トランプ氏に対する弾劾への反対が賛成を上回った。6州を合わせると、反対が52%だったのに対し賛成は44%と、8ポイント上回った。

 共和党ストラテジストのフォード・オコネル氏によると、トランプ陣営は今後、こうした接戦州で「10%の説得可能な有権者」をターゲットとしたCMキャンペーンを展開。票の掘り起こしを図るとしている。

 こうした積極的な広告戦略を可能にするのが、トランプ氏の豊富な資金力だ。

 トランプ陣営は、共和党全国委員会と合わせて、第2四半期(4~6月)に1億500万㌦、第3四半期(7~9月)に計1億2500万㌦と多額の資金を調達。これは、高い資金調達力を誇ったオバマ前大統領が再選に臨んだ2011年の第2四半期の8600万㌦、第3四半期の7000万㌦をも上回る。

 2008年の大統領選でオバマ氏の選挙対策本部長を務めたデビッド・プルーフ氏は、ツイッターで100万㌦以上費やしたといわれるトランプ陣営によるワールドシリーズでのCMについて「かなり強力だ。この時期の全国規模のテレビCMは前例がない」と驚きとともに警戒心を示した。

 トランプ氏の再選に向け、支持層の拡大は大きな課題だ。好調な経済にもかかわらず、トランプ氏の支持率は一貫して40%周辺を低迷している。

 トランプ氏は就任以来、連邦最高裁に2人の保守派判事を送り込み、壁建設などの移民対策を強硬に推進したことなどにより支持基盤を固めてきた。今後、コアな支持層以外の有権者にも支持を広げる戦略が奏功するかが勝敗を左右しそうだ。