トランプ氏の性格に不安募る
アメリカン・エンタープライズ政策研究所客員研究員 加瀬 みき
核のボタン握る米大統領
「精神的破綻」懸念する声も
ドナルド・トランプ米大統領就任の1周年記念日に当たる1月20日、アメリカ連邦政府が暫定予算失効のため一部閉鎖した。暴露本「炎と怒り―トランプ政権の内幕」が発売前からベストセラーになった。同著は、ホワイトハウス内では大統領はその職を全うするにふさわしくないとみなされ、友人たちがトランプ氏はおかしい、きちがいだと述べている、と紹介している。大統領は北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長に向け、自分の核のボタンの方が大きく強力とツイート。ホワイトハウスの医師が、大統領の健康状態は上々、自ら申し出て受けた認知症のテストは満点だった、と発表した。
これが年明けのワシントンの様相であるが、共通点はトランプ大統領の性格の問題と言える。
連邦政府の一部閉鎖は2013年以来4年ぶり。当時の大統領は民主党のバラク・オバマ氏、上院議会は民主党が多数、下院は共和党が多数を占めていた。臨時措置でどうにかつないできた連邦予算は借り入れの上限を上げられず、10月1日から政府の一部閉鎖に入ったが、両党間、そして大統領との対立を招いたのはオバマケア(医療保険制度改革法)に向けた支出であった。
一方、今回はホワイトハウス、上下両院とも同じ党という状況での初の閉鎖で、一部の移民の出生国・地域に対するトランプ大統領の発言が主要原因であった。トランプ氏は大統領選挙中、そして大統領に就任してからも差別的、反移民的発言が問題となってきた。メキシコとの国境沿いの壁建設を約束し、大統領就任直後から実質ムスリムの移民・難民を締め出す移民法の法制化を試み、シャーロッツビルで白人至上主義者が反対者と衝突し死傷者を出してもその言動を非難せず、反対者に同等の責任があると述べた。
アメリカの移民法にはさまざまな問題があり、抜本的な改革が何度も語られてきた。今、特に問題となっているのは、ドリーマーズと呼ばれる未成年で両親などに連れられて不法にアメリカに入り、その後アメリカで育ち成人となった人々の扱いである。支持政党に関係なく、ドリーマーズに対しては同情する人が多い。オバマ政権時代にこうした人々を強制国外退去から守るDACAという制度が成立した。トランプ大統領は当初廃止を唱えていたが、民主党議会指導者との会談でDACAを継続させると示唆した。しかしその後、再び見解を覆していた。
そうした中、ホワイトハウスで両党の議員を招いての移民法に関する会談が持たれたが、その場で大統領が、ハイチやエルサルバドル、アフリカ諸国など「シットホールの国々」からの移民をなぜ受け入れなければならないのか、と発言したことが大問題となった。「シットホール」とは「クソだめ」といった意味である。暴言、そしてそれに続く否定は、トランプ大統領の特徴となってしまったが、これにより民主党は、関連予算を含め移民法をめぐり、大統領に歩み寄りを見せることは問題外となってしまった。メキシコとの国境沿いの予算との引き換えという取引も成立しなかった。
トランプ氏の大統領らしからぬ発言やツイートは、支持者を喜ばせるが常識を外れており、事実誤認、自己弁護のための明らかなウソ、誹謗中傷なども多い。大統領としての職務より自分の気持ちが優先してしまう。プエルトリコが天災に遭い、住民は飲み水も不足する中、対策を打ち出すこともせず、大統領の言動に懸念を表明した共和党議員とツイッターで非難の応酬を繰り返した。
北朝鮮の金正恩委員長とは、トランプ氏が金氏を「ちびのロケットマン」と呼び、北朝鮮はトランプ氏を「きちがいの年寄り」と呼ぶなど、子供の喧嘩(けんか)のような言い合いを繰り返している。
大統領の衝動的な発言に対してはアメリカ議会も深い懸念を抱いている。北朝鮮との軍事衝突が真剣に語られる中、昨年11月には上院外交委員会が核攻撃をめぐる大統領の権限に関する公聴会を開催した。上下両院ともに共和党多数の議会内の委員会が、自党の大統領の権限に関する公聴会を開催したことになる。この公聴会では元将軍や専門家が証言したが、大統領が核兵器使用の最終権限を握ることを憂慮する発言が相次いだ。
12月初めには上下両院12人の議員(民主党11人、共和党1人)が、『ドナルド・トランプの危険な症状:27人の精神科医とメンタルヘルス専門家が大統領を査定』の編集者であり、イェール大学医学部の司法精神医学者で世界的に有名な暴力の専門家であるバンディ・リー医師から、大統領の精神状態に関する分析を聞き取っている。リー氏は大統領は「精神的に破綻する」と警告する。
こんな雰囲気の中でホワイトハウスが発表した大統領の「認知症テスト満点」であったが、テストの内容を見るとほとんどの人が満点を取れるものである。
ドナルド・トランプ氏は単なるクレージーか、それともキツネのような(狡猾な)クレージーか。世界の運命を決められる最強の軍事力と核兵器使用の最終決定権を握る最高司令官に関し、冗談とも言えない冗談がアメリカで飛び交っている。
(かせ・みき)