敗北から学ばない米民主党

エルドリッヂ研究所代表・政治学博士 ロバート・D・エルドリッヂ

ロバート・D・エルドリッヂ「企業寄り党員」が支配
全国委員長選で進歩派敗北

 米国の民主党はこのほど、DNCとして知られる民主党全国委員会の新委員長を決める選挙を行った。現状維持派から権力者、御用学者、機会主義者、穏やかな改革主義者、偽進歩派、真の進歩派に至るまで、十数人の候補がいた。

 民主党は2016年の米大統領選などの選挙とそれ以前の選挙で大敗を喫したことから何も学んでいない。コーポラティスト(企業寄り政治家)トム・ペレス氏が彗星(すいせい)のごとく現れ、進歩派の有力者の一人キース・エリソン氏を破った。ペレス氏は2013年から17年までの第2期オバマ政権で労働長官を務めた。過去半年の間で3人目の委員長だ。これはすなわち、党の指導層がいかに不安定で人気がないかを意味している。

 民主党の支持者であってもなくても、米国とその同盟国の人々はこの委員長選挙の結果が何を意味するのか、注意を払う必要がある。二大政党のうちの一政党の未来、今後数年間、バランスの取れた民主主義を守れるかを決めることになるからだ。

 民主党は極めて不人気だ。バラク・オバマ大統領、ナンシー・ペロシ下院議長の在任中、12の州知事、上院14議席、下院69議席、全米の州議会910議席を失った。

 さらに悪いことに、民主党は少数党院内総務にニューヨーク州のベテラン上院議員のチャールズ・シューマー氏を選出した。彼は23歳の若さでニューヨーク州議会議員になり、29歳で下院議員に当選、47歳に上院議員になり、現在は66歳だ。政治の世界の外で働いたことはなく、労働者よりも経済界と密接な関係を持っていることで知られる。金融業界から何百万㌦もの献金を受け取り、1999年にはグラス・スティーガル法を廃止させる投票を行い、2008年にウォール・ストリート金融を立ち直らせた。

 民主党の伝統基盤である労働者と別離し、企業・団体を支援していることに象徴されるように、シューマー氏は16年の選挙戦略で党を中道にシフトしようとし、こう述べた。「ペンシルベニア西部で労働者階級支持の民主議席を失っても、フィラデルフィア郊外の穏健共和党の2議席を奪える。オハイオ州とイリノイ州とウィスコンシン州でも同じことを起こせる」。このアプローチは、ペロシ氏やシューマー氏よりもコーポラティストのヒラリー・クリントン氏が採用したが、失敗した。

 こうした背景があり、民主党内の進歩派は改革を訴え、エリソン氏(53)を支持した。彼は07年にミネソタ州で当選したイスラム教徒初の下院議員だ。大統領選で惨敗を喫して1週間にも満たない11月14日、DNCに立候補することを決め、無所属でありながら民主党の革新系を代表したバーニー・サンダース氏の推薦を得た。

 ところが、驚くことにオバマ氏と周辺の人々はアフリカ系のエリソン氏の勝利を望まなかったと、ニューヨーク・タイムズが11月22日に報じている。オバマ氏と民主党指導層はエスタブリッシュメントの候補者を望み、12月15日にペレス氏を候補に選んだ。同時に、大統領予備選挙でクリントン氏の対抗馬サンダース氏を中傷したように、エリソン氏を反ユダヤ主義者などと批判するネガティブキャンペーンを行った。その結果、ペレス氏は僅差でエリソン氏に勝利した。

 ペレス氏はただちにエリソン氏を委員長代理の特別職に就けた。民主党が最近、サンダース氏を党勢拡大のための特別なポストに就かせたことからも分かるように、民主党は改革に対して真剣に取り組んでいない。こうした民主党のやり方や発言を見ると、ペロシ氏、シューマー氏、そしてペレス氏の選出でも分かるように、民主党は原点に返ることはなく、18年の中間選挙と20年の大統領選で共和党の勝利をお膳立てすることになると、筆者を含めて多くの専門家は感じている

 言い換えれば、民主党は「コーポレート・デモクラッツ(企業寄り民主党員)」にますます支配され、それによって、革新系の人々、若い人々は疎外感を持ち、不満を抱くようになった。これらの人々は、コーポレート・デモクラッツがその規模や精神において党を抜け殻にしたと非難している。やる気をなくした党にはほぼ改革能力がない。これは民主党だけではなく、米国の民主主義にとっても良くない。

 民主党が16年の選挙の大敗北から何も学ばなかったことから、若い有権者やオーガナイザーの間で、民主党を内部から改革する運動(「ジャスティス・デモクラッツ」と呼ばれる)が始まった。これが失敗に終われば、新しい政党を設立することになる。

 米国の政治に関心を持っている人々にとって、これらはとても重要な展開だ。残念ながらこうした出来事を、主要メディアはあまり報じていない。これらのメディアは、大統領選を正しく伝えず、民主党と同様、選挙から学ぶべき点があるはずだ。

 これまで以上に日本の読者、米国の有権者は、マスメディアの偏見・誤解を招く報道だけに頼ってはならず、さまざまなソースから情報を獲得することが重要となる。政治は国民にとってとても重要なものであり、政治家やそれに近い記者たちだけに任せてはいけない。