福音派、クリントン氏に強い反感
米大統領選、どう動く宗教票
米ピュー・リサーチ・センター上級研究員 ジェシカ・マルチネス氏
米大統領選で「宗教票」の動向は選挙結果を左右する重要な要素だ。米調査機関ピュー・リサーチ・センターのジェシカ・マルチネス上級研究員は、本紙のインタビューに、キリスト教福音派は共和党候補ドナルド・トランプ氏支持が大勢を占める一方、どの宗教にも属さない「宗教無所属」の有権者は、民主党候補ヒラリー・クリントン前国務長官支持の傾向が強いと指摘した。(聞き手=ワシントン・早川俊行)
民主は「無宗教」が最大勢力
共和党の主要支持基盤である白人福音派キリスト教徒は、2008年大統領選では73%、12年大統領選では79%が同党候補に投票した。トランプ氏も同程度の福音派票を獲得するだろうか。
予測するのは難しいが、今年6月に実施した世論調査では、白人福音派プロテスタントの78%がトランプ氏に投票すると回答した。これは12年の同じ時期に共和党候補ミット・ロムニー氏に投票すると答えた73%より多い。
福音派はロムニー氏よりもトランプ氏を熱心に支持しているということか。
少なくとも今年6月の時点ではそうだ。ただ、トランプ氏に投票する理由を尋ねると、「反クリントン」が45%で、「トランプ支持」は30%にとどまった。トランプ氏に積極的に投票するというより、クリントン氏に対する反感の方が強いことが分かる。
宗教心が薄く、2度の離婚歴があるトランプ氏を福音派はなぜ支持するのか。
多くの人にとって宗教は投票先を決める上で重要な要素だが、すべてではない。福音派は伝統的に共和党支持者が圧倒的に多い。トランプ氏は共和党候補であり、福音派がトランプ氏支持に傾くことは、特に驚くことではない。
福音派はさまざまな政治課題で自分たちの考えに近いのはトランプ氏の方だと強く感じている。6月の世論調査で、福音派はテロ対策や経済政策などあらゆる課題で、トランプ氏がクリントン氏より良い仕事をすると回答した。福音派にとって、宗教とは直接関係のない課題が投票先を決める重要な要素であることを示す一例だ。
米国では無宗教者が急増し、その多くが民主党を支持している。
「宗教無所属」が民主党有権者に占める割合は、1996年には10%にすぎなかったが、現在はほぼ3倍の29%に拡大した。宗教無所属は民主党内で白人福音派プロテスタント、白人主流派プロテスタント、黒人プロテスタント、白人カトリックなど、どの宗教グループよりも大きな勢力となった。6月に実施した世論調査では、宗教無所属の67%がクリントン氏に投票すると回答した。
無宗教者は同性婚や中絶など社会問題でリベラル傾向が強い。無宗教者の増加は民主党のリベラル傾斜を助長しているのか。
同性婚について言えば、宗教無所属がどの宗教グループよりもリベラルであることは事実だ。ただ、過去10年間のトレンドを見ると、同性婚支持の割合は福音派プロテスタントでも上昇しており、すべての宗教グループがリベラル化したことも事実だ。
無宗教者はなぜ増えているのか。
一つの大きな要因は世代交代だ。(2000年以降に社会人になった)「ミレニアル世代」など若者世代は高齢世代に比べ、宗教に属さない傾向が強い。また、すべての世代で無所属の割合がわずかに増えている。
米国も西欧諸国のような世俗国家になっていくのか。
長年、宗教学者たちは米国も西欧の道をたどると予測してきたが、そうなってはいない。宗教無所属の割合が増えているとしても、米国は依然、西欧諸国に比べ宗教色の強い国だ。過去10年間で急速な変化が起きたように見えるが、米国民の過半数が無宗教になるほど急激ではなく、成人の4分の3が宗教を持っている。従って、米国が今すぐに世俗国家になるとは思えない。
若者世代が高齢世代より宗教心が薄いというパターンが続けば、世俗化の傾向が続くと予想される。だが、宗教無所属の人々は宗教的な人々に比べ、子供を多くつくらない。また、宗教的な地域から移民が増える可能性もある。極めて多くの要因があり、米国がどうなるか予測するのは不可能に近い。
米国の2大政党制が、一つの宗教政党と一つの世俗政党の対立になっていく可能性は。
福音派の大半が共和党支持者で、宗教無所属の大半が民主党支持者であることは事実だ。だが、共和党でも民主党ほどではないが宗教無所属が増えている。民主党も依然、宗教を持つ人々の方が多い。宗教政党と世俗政党に完全に分かれるには、長い時間、または、劇的な変化を要するだろう。