米大統領選、懸念されるポピュリズム
オバマ米大統領の後継を選ぶ次期大統領選(11月8日投開票)に向け、きょうは指名争いの初戦となるアイオワ州党員集会、今月9日にはニューハンプシャー州で全米最初の予備選挙が行われる。
本格化する指名争い
両州で上位につけた候補者は、選挙資金や有力者からの支持確保が容易となって選挙戦で勢いを増す。逆に、他の多くの候補者が戦列から脱落する。従って、民主、共和いずれの候補者も勝って弾みを付けようと必死の運動を展開する。
両州では、民主党では左派候補バーニー・サンダース上院議員、共和党では排外的発言で激しい言葉を並べ有権者の興味を誘った不動産王ドナルド・トランプ候補が、高い支持率を獲得している。
トランプ候補を支持する有権者は、国境の警備を強化し、テロを殲滅(せんめつ)し、米国を再び大国にしようとしている発言に共鳴する。昨年12月にカリフォルニア州で起きた銃乱射事件の直後には、テロへの不安が広がる中、イスラム教徒の入国禁止やモスク(イスラム礼拝所)閉鎖などの強硬策を訴えた。
一方、民主党では最有力候補とみられるヒラリー・クリントン前国務長官が、ニューハンプシャー州で「社会主義者」を売りにしているサンダース議員にリードを許している。アイオワ州でも接戦だ。サンダース議員は公立大学の学費無料化、奨学金ローン対策、所得格差是正、景気回復さらには地球温暖化対策、シリア難民問題などについて語り、特に若年層を引き付けている。
民主党は、予備選運動が開始された序盤戦はファーストレディー、国務長官を務めたクリントン候補が圧倒的な強さを見せて大量のリードを保ってきた。だが私用メール問題をめぐって新たに、これまで判明していたものよりも機密性の高い情報をやり取りしていたことが明らかになり、不信感が募っている。
共和党は、元大統領の父と兄を持つジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事が最有力視されてきた。当初は断トツの政治資金力もあり有力候補と見なされたものの、共和党討論会のディベートでの消極的姿勢が目立ち、今や全国の支持率は1桁台にとどまっている。
オバマ政権下では、民主党と共和党の激しい対立の中、政治が停滞している。議会の支持率は1割程度しかなく、史上最低である。また、中間層の経済的不安や移民に雇用や社会保障費を奪われることへの警戒感は強い。にもかかわらず、既存の政治指導者は無関心だと多くの国民は考えている。
トランプ、サンダース両候補の躍進は、既成政党に属さないワシントンアウトサイダー(部外者)で、エスタブリッシュメント(職業政治家)でない人物への有権者の期待である。しかし、掲げる公約は大衆受けを狙っているかのようで、ポピュリズム(大衆迎合主義)の台頭に懸念を抱かざるを得ない。
政治不信を払拭せよ
長い選挙戦が始まるが、国民の政府や政治への悲観的な見方が見え隠れしている。政治不信を払拭(ふっしょく)する論戦が求められる。
(2月1日付社説)