2015年の米ユダヤ系議員団
逆風下だった中間選挙
共和党優位も外交面で利点
現在、米連邦議会におけるユダヤ系議員の総数は上院が10人、下院が19人。米総人口の2%弱にすぎぬユダヤ系が上院議員の10%を占めている事実は米政界における彼らの無視し難い力量を物語る証左といえよう。
とはいえ、ピーク時の2009年初頭(オバマ政権発足時)と比べると上院で3議席、下院では実に12議席も失っているのだ。姿を消したこれら15人の中には高齢引退組、転職組も含まれるが、今回の中間選挙における「共和党圧勝」のあおりを受け、落選した議員も随分いたのだ。民主党所属が圧倒的に多いユダヤ系議員ならではの逆風下の選挙戦だったわけだ。
ユダヤ系と民主党、その結びつきは強くて古い。宗教的少数派であるユダヤ系は「弱者・マイノリティーの政党」、民主党と結びつくことで歴史的に力を発揮してきたわけだが、職業的利害によってもユダヤ系の民主党支持は説明できる。今日、在米ユダヤ系の「三大職種」と言われる弁護士、医師、大学教授について見てみよう。彼らはいずれも民主党政権のもとでその職業的利益拡大を期待できる立場にある。例えば、弁護士にとり、米企業の国際競争力を低下させるという理由で、ゆきすぎた訴訟社会の是正を求める共和党は自分たちのビジネスチャンスを縮小する迷惑な政治勢力なのだ。それ故、野放図な訴訟社会を維持するためには共和党のライバル、民主党を応援せざるを得ないというわけだ。また医師にとっても民主党左派が目指す「国民皆保険制度」は患者を増大させ、多大な利益をもたらす歓迎すべき制度なのだ。さらに大学教授にとっても、「大きな政府」を標榜(ひょうぼう)する民主党政権においてこそ、教育、研究面での潤沢な助成金を期待できるのである。
ところで、近隣居住区を選挙区とする下院議員の場合、「ユダヤの大票田」を背景に当選するケースが多い。ユダヤ人口が最も多いニューヨーク、カリフォルニア、フロリダの3州だけで、全体の3分の2に相当する13人のユダヤ系下院議員が当選しているほどだ。彼らの中には「ユダヤ・ロビーの代弁者」の役割を担う者が少なくない。内政面ではリベラルでありながら、中東政策ではタカ派の立場を貫くこれら「ユダヤ・ロビーの代弁者」にとり、共和党優位の現議会は外交面ではむしろ望ましい状況なのだ。弱腰オバマの中東政策をあらためさせ、イスラエルとの同盟強化を迫る絶好のチャンス到来といえるからだ。そうした代表が下院外交委員会の首席委員、ブラド・シャーマンである。核開発を止めぬイランへの締めつけと、民主化によるイランの体制変革に尽力。またパレスチナ自治政府のアメリカからの援助金カットを唱導した強硬派として有名だ。将来を最も嘱望されているのがフロリダ州選出の下院議員、デビー・ワッサーマン=シュルツだ。彼女は民主党議員団における「親イスラエルの旗振り役」を務めている。その指導力がいかんなく発揮されたのは占領地からの撤退を求めるオバマをネタニヤフが厳しく批判した2011年5月の米両院本会議の演説においてであった。演説中、議員たちは59回にも及ぶスタンディング・オベーション(一斉に起立して拍手を行う行為)を繰り返したことで、米議会の親イスラエルぶりを世界にむかって印象づけたのである。この時、共和党議員団が率先して始めたスタンディング・オベーションに遅れじと、民主党議員団に対し、それに参加するよう、議場内で合図を送ったのが他ならぬ彼女であったのだ。歳出委員会に所属するニタ・ロウイもユダヤ・ロビーが頼りにする下院議員だ。2011年秋、イスラエルの面子を潰すためにパレスチナ側が仕掛け、それに成功したユネスコへの加盟申請。パレスチナの加盟をすんなり承認してしまったユネスコに対する報復措置として、米政府による拠出金凍結実施を求め、それに成功したのはロウイにまつわる手柄話なのだ。
注目の新人は高齢で死去したダニエル・イノウエ議員の地盤を引き継ぎ、ハワイから選出された連邦上院議員、ブライアン・シャーツ(1972―)だ。ハワイのユダヤ人口は7000人、州民全体の0・6%にすぎぬが、リゾート開発、ホテルやショッピング・モールの建設・経営で財をなし、同州民主党にとり重要な献金源となっている。故イノウエ議員がそうであったように、資金源たるユダヤ社会と大票田たる日系社会との同盟により擁立された政治家といえよう。
想い起こせばイノウエは日系議員でありながらユダヤ系顔負けの親イスラエル派でもあった。年四分割して諸外国に与えられる決まりの米政府支給の援助金。イスラエルだけは年度初めに一括して受給できるよう改めさせ、当面、使用せぬ分を預金し、金利収入を稼げるという特別待遇を米連邦議会で認めさせたのはイノウエの功績であった。こうしたイノウエの地盤を受け継いだシャーツもまた親イスラエル派として知られている。ハワイから連邦政界に初当選したユダヤ系、シャーツの米中東政策への働きかけが注目される。
(さとう・ただゆき)






