東京五輪に受動喫煙対策を
「健康被害深刻」とWHO
公共の場では世界の常識に
与野党の有志議員が2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて、公共施設などでの禁煙や分煙を義務化する「受動喫煙防止法」の制定を目指す議員連盟が昨年11月に発足したことが報ぜられた。
受動喫煙の防止は、神奈川、兵庫両県で罰則付きの条例が制定されているが、国レベルでは健康増進法で病院や劇場、飲食店などの施設管理者に努力義務を課しているにすぎない。
また、職場での禁煙は、民主党政権が事務所に全面禁煙か空間分煙を義務付ける労働安全衛生法改正案を提出したが、廃案となっていた。自民、公明両党が6月に成立させた改正法は努力規定になっている。
議員連盟は、公共性の高い施設には禁煙を義務付け、飲食店やホテル、パチンコ店なども禁煙または分煙とすることを検討している。
昨年冬のオリンピック・パラリンピックが開催されたソチをはじめ、北京、ソウルなど多くの国や都市に、罰則付きの受動喫煙防止条例があり、イギリスでは施行範囲が全土におよび、またドイツでは違反者に1000ユーロという高額の罰金が科せられている。ヨーロッパでタバコが吸える飲食店はない。
2008年、世界保健機構(WHO)は、「タバコにより1年で500万人以上の人が亡くなった」という、ショッキングな報告書を発表した。これは、結核とHIV・エイズ及びマラリアを合わせた死亡数より多い。世界銀行でも1999年に、タバコの流行を「HIV・エイズに次ぐ地球規模での脅威」と位置づけ、対策の重要性を訴えている。
タバコ産業は、先進国での需要が低下しているため、発展途上国にターゲットを移し始めた。先進国と同じ健康被害が発展途上国に広がる前に、世界的な対策が緊急に求められている。
WHOの下部機関である国際がん研究機関(IARC)は、喫煙・受動喫煙を「ヒトへの発がん性あり」として、放射線やアスベストと同じグループに位置づけている。
わが国では、昭和40年の男性の喫煙率は8割を超えていたが、年々右肩下がりに推移してきたが、しかし、米国の18%、英国の22%に比較し、国際的には高い。
ニコチンには強い依存性があり、「毒物及び劇物取締法」の毒物に指定されている。タバコには50を超える発がん物質・発がん促進物質、250もの有害物質が含まれている。
喫煙により肺がんをはじめとする種々のがん、虚血性心疾患(心筋梗塞・狭心症)、肺疾患(気管支炎・肺気腫など)、消化器系疾患(胃・十二指腸潰瘍など)、そのほか疾患のリスクを増大させる。
喫煙者の余命は非喫煙者より4~5年短く、全死因のうち喫煙が原因と思われるものは男性で約3割の年間9万人、女性と合わせ約11万5000人になる。
受動喫煙は、主流煙より危険性が大きく、タバコから立ち上る「副流煙」は、喫煙者の口腔内にある「主流煙」より、10倍から100倍も数値が高い。
WHOで「たばこ規制条約」が可決されたのは2003年、わが国がこれを批准したのは2005年のことである。
厚生労働省もこれまで、官公庁施設の全面禁煙を求める通達を地方自治体に出すなど禁煙運動の音頭をとってきたはずだが、肝心の足元でこの通達が徹底されていない。
同省は、平成22年2月、健康局長名で受動喫煙防止対策の実施を通達し、具体的には「公共空間は原則、全面禁煙であるべきだ」と指示。中でも中央省庁や自治体庁舎について「少なくとも全面禁煙が望ましい」とした。
ところが、同省は平成24年5月、小宮山洋子厚労相(当時)の指示で省内に2カ所あった屋外の禁煙スペースのうち、1階エントランス付近の喫煙スペースを閉鎖したものの、全面禁煙は先送り。「喫煙、禁煙両者に配慮する」として、2階のオープンデッキでの喫煙を許可した。
国においても、人事院から「職場における喫煙対策に関する指針について(通知)」が発出されており、その中で、職場において講ずべき受動喫煙防止対策の基本的な考え方として、受動喫煙を防止する方法としては、「庁舎全体を禁煙とする方法」と「庁舎内に設けた一定の要件を満たす喫煙室又は喫煙コーナーのみで喫煙を認める方法」とがある。
受動喫煙によって化学物質過敏症など健康被害を被っている揚合には、当局側が何らの措置も講じなければ安全配慮義務違反に問われる可能性がある。
たばこを吸える飲食店では、微小粒子状物質(PM2・5)の濃度が大気汚染が深刻な中国北京市並みとの、産業医大産業生態科学研究所大和教授の指摘(読売8月4日報刊12面)もあり、多くの先進諸国はレストランも全面禁煙とされており、多数の外国人が訪日する2020年の東京五輪までに全面禁煙の措置が必要であろう。
(あきやま・しょうはち)