共和党追い風の米中間選挙

アメリカン・エンタープライズ政策研究所客員研究員 加瀬 みき

加瀬 みき不人気なオバマ大統領

内向き変えた「イスラム国」

 大統領選挙に比べると関心度の低い中間選挙であるが、間近に迫った今年の選挙に向け二つの側面に焦点があたっており、二つとも共和党に有利に働いている。アメリカ経済の行方と孤立主義への傾向からの反転である。

 アメリカ経済は上向いている。先の国際通貨基金(IMF)・世銀総会でも、IMFが世界経済の見通しを下方修正した中で先進国のなかでは英国とともにアメリカ経済が堅調に推移する見通しと評価された。先月の失業率は5・9%と2008年のリーマン・ショック前の数字に回復し、ダウはリーマン以前の最高値を一時は3000㌦も越えた。

 経済状況は時の政権の支持率に大きく影響を与える。しかし、オバマ大統領の場合、経済の回復が何故か支持率の回復に貢献していない。昨年秋に大幅に下がった支持率は最新の複数の世論調査でも4割、不支持率が5割を超えている。大統領は選挙で足を引っ張ると、民主党の議会候補者たちが大統領から距離を置くほどである。

 理由はいくつか推測される。経済回復の恩恵を得ているのは、大企業そして株式市場の大幅回復で資産が増える富裕層であり、ほとんどの市民の懐の中身は変化していない。さらには失業率が減った、つまり職を得られる人が増えても、給与は低く、そして長期失業者は相変わらず職が見つからないことも挙げられる。

 民主党にとってさらなる問題は、所得の不平等である。共和党が市場原理で勝者が生まれれば、その恩恵が下流に流れる、つまりは大企業がもうかるのは一般市民にとっても良いこと、という議論を展開してきたのに対し、民主党は貧困層やマイノリティーに平等な機会と所得の増加をもたらすことをモットーとしてきた。ところが、オバマ政権下で所得の不平等がより大きくなっている。

 アメリカの財政赤字が大幅に減り、ウォール・ストリートは活気に溢れ、高級品が売れても、ほとんどの一般市民には恩恵はない。相変わらず複数の職や福祉で生活をつなぐ家族は多い。所得の不平等が深刻な問題であるのは、イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長も強調している。しかし、決定的な施策は見えず、教育機会の拡大など修正の道のりは長い。

 失業率という表面的数字が大幅に減り、同時に生活水準の改善への見通しがたたないことで市民の経済への関心度が落ちたことも、せっかくの経済回復が民主党や大統領の支持率に貢献しない理由である。

 同時に安全保障面での危機が訪れた。イラクとアフガニスタンから撤退し、国内に目を向けるはずであったが、「イスラム国」(IS)が強引に海外に目を向けさせた。ISとともに戦うアメリカや欧州国籍者の数が約3000人。その人々は自由に自国と中東を行き来できる。栗毛で肌は白いフロリダ出身の22歳の青年は、アメリカとシリアを行き来した挙げ句、シリアで自爆テロを実行した。アメリカでは、こうしたアメリカ人が米国内でテロを起こす危険があるという不安が広がったところに、アメリカ人ジャーナリストや英国人の斬首映像、そして欧州やアメリカでテロを実施するという強迫がソーシャル・メディアに流れた。

 残虐で理屈の通らない過激派が、アメリカ人やアメリカ国土を狙っているという恐怖からアメリカ市民の内向き姿勢は一変した。安全保障が選挙に向け重大な論点となった。エボラ熱対策でも海外からの「敵」を防げず、その対応策の鈍さと不備も大統領の安全保障姿勢の至らなさに数えられている。

 共和党にとっては国民が広く安全保障へ関心を抱きだしたことは大きなプラスとなっている。ISにしてもエボラ熱対策にしても大統領の対応が鈍かった、施策を誤ったと攻撃できる。ことイラクやシリア政策に関しては、第1期オバマ政権で国防長官を務めたボブ・ゲーツやレオン・パネッタ、そして国務長官であったヒラリー・クリントンと、ワシントンの大物政治家3人がそれぞれの回顧録でオバマ大統領の政策や姿勢を批判しており、3人の記述や発言は共和党支援広告のようなものである。

 突如、安全保障に目を向けた有権者は、共和党の候補者たちの「オバマ大統領は外交安全保障政策に弱く、そのためアメリカの国際的威信や安全が危険にさらされている」という主張に耳を傾けるようになっている。その上、共和党候補者の中には戦闘の現場や安全保障に直接かかわった人々が含まれる。アイオワ州の上院議席を狙うジョニ・アーンストやアーカンソー州上院候補トム・コットンはイラクやアフガニスタンの前線を知る。アラスカ州のダン・サリバン候補は海兵予備隊中佐で国家安全保障委員会のスタッフであった。選挙が近づくほどに彼らは民主党候補に比べ安全保障面で経験と実績があることを繰り返している。

 過去数回の選挙同様、民主党の方が自党支持者を投票所に向かわせるかもしれない。前回同様、共和党が自らの失敗で首を絞めるかもしれない。しかし、経済改善が大統領と民主党にプラスに働かず、大統領への信頼が崩れた安全保障が大きな課題となっていることは、共和党が上院での多数を確保する追い風であるのは間違いない。(敬称略)

(かせ・みき)