アフリカ支援に環境配慮を

太田 正利評論家 太田 正利

開発で人災が増す恐れ

深刻なエボラ出血熱の打撃

 最近「三菱商事」がアフリカで油田の探鉱権を取得し、その事業費は8000億円と報ぜられた。既得権益を有する企業として、三井物産(モザンビーク)、伊藤忠(ナミビア)、国際石油開発帝石(アンゴラ)等を挙げ、三菱商事はコートディヴォアールにも進出している(日経9月12日)。

 アフリカと筆者は浅からぬ因縁があるのは読者もご存じかもしれない。事実、筆者はケニアをはじめ(1968年)として、ザンビア、南アフリカと計3箇国に在勤(約8年半)した。次の喩え言は一部のアフリカ諸国には失礼にあたるかも知れないが(筆者の発明ではない…念のため!)、「ガーナは地獄の1丁目、ナイジェリアは2丁目、スーダンは地獄そのもの、南アは天国、ケニアは地上の楽園」という言い伝えがある。つまり、これによれば、筆者は、アフリカの「天国」と「地上の楽園」の両方を経験したわけだ!

 冗談はさておくとして、アフリカの風景には素晴らしいものがある。ザンベジ川の下流にあるヴィクトリアの滝、ヴィクトリア湖の風情、キリマンジャロの山景、アフリカ南端の喜望峰、テーブル・マウンテンの頂上から眼下に見下ろすケープタウン等々。さらに、ナイルの畔で大河の流れを前にして、駐スーダン大使夫妻と夕食を共にした経験もある。スーダンは決して地獄ではなかった! 幸いにして筆者はすべてを実際に経験している。

 以上は体験者のみが知るアフリカの素晴らしさだ。ただし、アフリカは広い。筆者が講演などで話すのは、「アフリカは広く、一言にして言い難し」というのが、イントロダクションだった。

 現在、日本ではアフリカといえば、如何なるイメージで語られているのだろうか。前にも書いたかと思うが、1968年にスイスから一等書記官としてナイロビに転勤する際、時の駐スイス大使から、これから「瘴癘(しょうれい)の地」に行かれるので、くれぐれも御身大切にと餞(はなむけ)の言葉を頂いたことを記憶している。実際に行ってみれば、決して酷暑の地ではなく、また、「瘴癘」の地でもなかった。地上の楽園!? 勿論裕福な国ではなかったが。

 アフリカは概ねヨーロッパ諸国の植民地だった。20世紀前半までこの大陸は、英、仏、独、伊、葡等に分割されていたが、第2次大戦を契機として次々と独立していった。その独立の過程で各国は多くの経験をしたのだが、わが国で比較的実感されていないのは、アフリカは部族の集合体という面が強いということだ。例えば、ケニアはキクユ族とナイル系のルオー族の国であり、筆者は、ケニア勤務の最初に現地の大使館に関係のあったシーク系インド人に、「部族問題を知らずにアフリカを識(し)ることは不可能」と説かれ、これを勉強したことを記憶している。ザンビアも多部族国であり、これを克服するため、大統領をはじめとする政府当局は、多くの集会で人々に「ワンザンビア・ワンネーション!」と叫ばせていたものだ。

 さて、最近のアフリカでは、年来の旱魃(かんばつ)、砂漠化のほか、宿痾(しゅくあ)ともいうべき人間社会における飢餓、貧困の問題があり、また、現下話題になっているエボラ出血熱の感染拡大が止まらず、感染者数は5000以上という具合。WHOはあと500人の医師等が必要といい、中国もエボラ対策用に2億元の医療資源を提供、その他、ゲイツ財団、オバマ大統領も大規模な援助を表明しているようだ。これらの詳細は、平野克己氏(日本貿易振興機構アジア経済研究所の地域研究センター長)による「エボラと鉄鉱石:アフリカ経済予測」(「フォーサイト」9月27日付)に詳しいが、感染地である西アフリカ諸国において鉱山開発にあたっている企業の株価がかなりの勢いで下がっている模様だ。

 資源価格が全般的に下落基調にあるといわれているが、なかでもこの傾向は鉄鉱石価格において顕著な模様だ。本年においてその価格下落は40%とされ、ピーク時(11年初頭)の半値以下である。

 中国経済の成長減速、即需要減速が効いている。それにも拘わらず、中国の鉄鋼産業は異常拡大しているようだ。7億㌧という日米の7倍にのぼる生産体制は何とか整理せねばなるまい。最近中国の最大手企業の一つ河北鉄鋼業集団が、南アに年産500万㌧規模の製鉄コンプレックス建設のため、南アの産業開発公社と契約を結んだ由である。これは、中国にとって国外最大の製鉄プロジェクトになる由。

 かかる現状下、アフリカ諸国における環境問題への対応如何? この大陸において、かつての植民地時代には、宗主国の力により何とか対応されてきたようだが、現在、この問題に対応すべき現地政府の取り組み如何? ここには、「人災」ともいうべき側面―紛争、政争、腐敗―がある。現地政府における対処には現在、紛争、政争、腐敗などの「人災」面に無視すべからざるものがある。それに、開発の名における利権あさりなどが挙げられよう。

 筆者は、現地駐在時代からアフリカの重要性を説き、日本の後れとともに中国の進出に警鐘を鳴らしてきた。今や「開発利権」あさりなど脇に置き、真にアフリカを思う環境配慮の支援が必要なりとの感を深くする昨今である。さらに、アフリカには、政情不安、内戦、感染症等のリスクもあるため慎重にことを進める必要がある。

(おおた・まさとし)