【社説】米通商政策報告 TPP復帰を目指すべきだ


通商代表部の紋章-Wikipediaより

 米通商代表部(USTR)が、バイデン政権の2022年通商政策の報告書を議会に提出した。報告書は22年の重要政策課題として、近く発足させる「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」を取り上げた。

インド太平洋で中国牽制

 報告書は、経済大国である米中の2国間関係が「両国のみならず世界全体に影響を及ぼす」と記す一方、中国の強制的かつ不公正な貿易慣行は「摩擦を引き起こしている」との認識を示した。

 USTRは先月、2001年に中国が世界貿易機関(WTO)に加盟してから20年間の検証結果をまとめた報告書を発表した。報告書は、中国で習近平指導部が始動した13年以降、「経済における国家の役割が肥大化した」と指摘。中国の不公正な貿易慣行として、政府の産業補助金や知的財産権侵害、輸出制限など約60項目を列挙した。

 今回の報告書は、経済安全保障における中国の脅威に対抗するため、IPEFを近く立ち上げると明記。今後、日本などアジアの同盟・パートナー国との連携を強化し、共にルール形成を主導する姿勢を示した。

 市場競争をゆがめる中国に対抗する上で、同盟国などとのつながりは重要だ。協力分野として、デジタル経済、労働や環境に配慮した貿易ルール、強靭(きょうじん)なサプライチェーン(供給網)再編、脱炭素化、中国経済圏構想「一帯一路」に代わるインフラ整備などを挙げた。

 世界のサプライチェーンからの強制労働の根絶でも協力するとした。中国・新疆ウイグル自治区での強制労働については「人間の尊厳に対する侮辱」と強く批判した。米国では昨年12月、新疆ウイグル自治区で生産された製品の輸入を人権侵害を理由に原則禁止する「ウイグル禁輸法」が成立している。強制労働に厳しく臨み、根絶を急がなければならない。

 米国はトランプ前政権時代に発効前の環太平洋連携協定(TPP)から離脱した。バイデン政権はTPPに再加入しない方針を明確にしている。支持基盤である労働組合などの反発が強いためだ。しかしTPPは高い水準の貿易・投資ルールに基づく自由貿易圏を形成し、中国を牽制(けんせい)する狙いがあった。

 IPEFには法的拘束力がないため、どこまで実効性を持てるか不透明だ。米国はIPEFの発足だけでなく、やはりTPP復帰を目指す必要がある。

 中国は昨年9月、TPPへの加入を申請した。不公正な貿易慣行を続ける中国が加入できる可能性は低いが、バイデン主権主導で構築が進む対中包囲網に対抗する狙いがあろう。

日本は米国に促し続けよ

 岸田文雄首相は今年1月、バイデン大統領とのテレビ会談で国際経済秩序に挑戦する中国の脅威に備える経済安全保障の観点から、外務・経済担当閣僚による「日米経済政策協議委員会」(経済版2プラス2)の新設で合意した。

 経済版2プラス2はIPEFの実現に向けて戦略を練る場にも位置付けられる。日本はIPEF推進に協力するとともに、米国にTPP復帰を促し続ける必要がある。

(サムネイル画像:Wikipediaより)