ラッカ制圧、過激思想生まない社会構築を
過激派組織「イスラム国」(IS)がイラクとシリアでの拠点を次々に喪失し、「カリフ制国家」は事実上崩壊した。しかし、ISの影響力はすでに北アフリカ、東南アジアに拡大、今後も各地で掃討作戦が続くだろう。IS誕生、拡大につながった過激思想の根絶、イスラム社会が抱える矛盾の解消も急務だ。
ISが「首都」と称する
クルド人主体の「シリア民主軍」(SDF)は、ISが「首都」としてきたシリアのラッカ解放を宣言。SDFは4カ月前からラッカで、米軍主導の有志連合と共に掃討作戦を続けてきた。
ISは2014年にイラク北部、シリア東部を支配地とするイスラム国家の樹立を宣言。イスラム教の預言に基づくとされる終末論を掲げたISの下には、世界各地から戦闘員が集結し、ピーク時にはその数は3万人超とも言われた。不寛容で厳格な支配の下で、ISの指示に従わないものは容赦なく処刑され、他宗教に対しても厳しい弾圧を加えた。イラクのヤジディ教徒は奴隷化されるなど辛酸をなめ、日本人を含む多くのジャーナリストらも殺害された。
ISは7月、イラクの支配地の中で最大の都市モスルを失った。国内での完全殲滅(せんめつ)は時間の問題だ。一方で、拠点を奪われた外国人戦闘員らが母国に帰還し、テロを実行することが懸念されてきた。多くの難民が流入している欧州も例外ではない。
また、ISとの直接の接点はなくとも、その過激思想に感化され、支持を表明するイスラム過激組織が世界各地で出現した。さらに厄介なのは、組織に属さず、過激思想に影響を受けたローンウルフ(一匹おおかみ)、ホームグロウン(国産)テロリストらだ。
中東を席巻した「アラブの春」後、他国に先んじて民主化を進めてきたチュニジアからは、単独の国としては最多の戦闘員がISに参加していた。だが、イラク、シリアからの帰還戦闘員への監視、取り締まりを実施し、テロの抑止で成果を挙げている。今後の過激思想の抑制には民主化、経済発展が鍵となってこよう。
ISはリビア、アフガニスタンに一部勢力を移し、東南アジアのフィリピン、インドネシア、北アフリカでも支持者を増やした。ISへの支持を表明するテロ組織も相次いだ。ソマリアでは、ISに傾倒するイスラム過激派アルシャバーブによるテロで300人以上が死亡するという大惨事が起きたばかりだ。
シリアのように内戦などで力の空白が生まれれば、第2、第3のISの出現もあり得よう。IS殲滅後のシリア内戦の行方も気になる。また、相次ぐ過激組織の出現を止めるには、過激思想の温床になってきた絶望や貧困を抑制することも必要だ。
国際社会との協力を
宗教学者カレン・アームストロング氏は米同時多発テロ直前に執筆した著書で「抑圧と強制」「強引な世俗化政策」が暴力と狂信的態度を生み出したと指摘。「イスラームを正確に理解する力」の必要性を訴えていた。
過激組織拡大への警戒を強めるとともに、過激思想を生まない社会の構築へ、イスラム社会と国際社会との協力が必要だ。