トランプ氏外遊、中東和平へビジョン示せ


 歴代の米大統領が取り組みながら失敗してきた中東和平を実現できるのか。

 トランプ米大統領は就任後初の外遊先に、中東のサウジアラビアとイスラエルを選んだ。オバマ前米大統領も就任後間もない2009年6月にサウジ、エジプトを訪問したことを考えれば、米国の中東重視の姿勢が見えてくる。

具体的な言及はなし

 トランプ氏の中東歴訪の最大の目的は、イラン包囲網の構築にあったとみられる。イスラエル訪問でも、期待された中東和平に対する具体的な言及はなかった。

 トランプ氏は大統領選の選挙戦中からイスラエル寄りの姿勢を鮮明にしており、テルアビブの米大使館をエルサレムに移転する意向を表明したほど。エルサレムはイスラエルが「永遠不可分の首都」としているが、国際社会からは認められていない。

 大使館移転は「首都エルサレム」を後押しすることになる。東エルサレムを将来の「パレスチナ国家」の首都としたいパレスチナ自治政府にとって受け入れられるものではなく、アラブ諸国の反発も必至だ。

 トランプ氏はイスラエルとパレスチナとの首脳会談、その他の演説で和平への意欲は示したものの、具体的な言及は一切なかった。和平への最大の障害となっている入植地、難民問題などには触れず、「2国家共存」や大使館移転についても言及はなかった。

 イスラエルの右派の間では、イスラエル寄りの姿勢を取るトランプ氏に大統領就任前から強い期待があった。右派政権を率いるネタニヤフ首相は、トランプ氏について「イスラエルの真の友」とまで述べた。ところがトランプ氏が発言を二転三転させたため、その期待もしぼんでいた。

 中東和平交渉は3年余り中断されたままだ。オバマ前政権時に米イスラエル関係は悪化、その一因はオバマ氏の入植活動への反対だった。

 一方、トランプ氏はブッシュ(子)政権時代から中東和平での米国の政策の柱となってきた「2国家共存」についても「こだわらない」という姿勢を示した。イスラエル、パレスチナはトランプ氏に振り回されてきた格好だ。

 今回の訪問で、和平への具体的方針をトランプ氏は示すことができなかった。これまでのようなイスラエルに有利な発言は控えたものの、パレスチナに対しては暴力を抑制するよう要求しており、パレスチナからはイスラエル寄りと見られても仕方ないだろう。

 トランプ氏は、中東和平問題について、周辺アラブ諸国との関係改善から取り組んでいくとの考えを示したことがある。そういう意味でサウジとの関係改善は理解できる。

実現への意欲は見せたが

 トランプ氏は、中東和平が「困難なディール(取引)」であるが「実現可能」と意欲を示した。双方に痛みを伴う可能性も示唆した。

 「強い米国」を目指すトランプ氏の力量に期待するところは大きいが、まずはビジョンを示すことが必要だ。