NATO首脳会議、トランプ氏は集団防衛明言を


 トランプ米大統領は、ベルギー・ブリュッセルで開催された北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議に初めて出席した。加盟国の首脳らを前にした演説では、加盟国の多くが国防支出の目標を達成していないことに不満を表明。加盟国による集団防衛を規定するNATO条約第5条について順守を明言しなかったことも、不安材料として指摘しなければならない。

国防費目標未達成を批判

 トランプ氏は昨年の大統領選で「応分の負担」をしないNATO同盟国を米国は守らないかもしれないと語った。また、NATOは時代遅れで加盟国は米国の気前の良さに感謝していないと批判してきたため、欧州各国が懸念を強めていた。

 NATOは加盟国の国防費を2024年までに国内総生産(GDP)比2%以上に引き上げる目標を設定している。トランプ氏は演説で「加盟28カ国中23カ国がいまだに支払うべきコストを負担していない」と批判。過去8年間、加盟国の国防費総額の半分以上を米国が支出していることを挙げ、目標の前倒し実施を求めた。

 首脳会議では、各国が前倒しに向け、毎年計画を策定することで合意した。すべての加盟国が目標を達成することが、米国との信頼醸成を一層確実なものにする。

 NATOを時代遅れとする発言に対し、とりわけロシアと国境を接する国の反発は極めて強い。当然である。ロシアによるウクライナ南部クリミア半島の併合や、ウクライナ東部における軍事介入などの事態を目の当たりにしている。

 1949年に大西洋を挟んでNATOが創設されたのも、ソ連の脅威に対応するためであった。ソ連から後継国家のロシアとなっても、国家の本質はそう簡単に変わるものではないとの認識は重要である。

 トランプ氏のNATOへの認識と評価は、自身の対外問題への関心の低さもあり、一定しておらず、同盟諸国の不安材料の一つであった。

 NATOは首脳会議で「テロとの戦い」への関与拡大で合意。過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦を展開する米国主導の有志国連合への参加を正式表明した。テロ対策でNATOの役割拡大を求めるトランプ氏に応え、米欧の強い結束を打ち出すことが期待される。

 トランプ氏は演説で2001年9月の米同時テロに触れて「NATOの同盟国は、その歴史で初めて(NATO条約)第5条を発動し対応してくれた」と謝意を示した。もっとも、トランプ氏自身は第5条順守を明言しなかった。NATO創設以後、第5条に触れなかった米大統領は初めてである。

同盟国の期待に応えよ

 第5条は同盟国のうち1国への攻撃を同盟国全体への攻撃と見なし、集団防衛することを定めている。いわばNATOの根幹をなす条項である。歴代の米大統領は順守を明言してきた。当然、トランプ氏もそうすべきである。

 NATO諸国は米大統領にリーダシップの発揮を期待している。トランプ氏はそれを忘れてはならない。