EUとの対立深めるトルコ
集会禁止措置に猛反発
シリア難民引き取り拒否も
トルコでは、従来の議会制民主体制を大統領制政治体制に変更し、大統領の権限を大幅に強化する憲法改正を目指す国民投票が4月16日に予定されている。トルコの現エルドアン政権は、この憲法改正国民投票を成功に導くために、なかんずく欧州連合(EU)在住のトルコ人の説得を目指して多くの閣僚を演説目的で現地に送り込もうとしている。この試みは必ずしも成功していないどころか、トルコとEU諸国、とりわけドイツ、オランダ、オーストリアおよびデンマーク諸国間の深刻な対立の原因となっている。
国民投票の対象とされる改正憲法によれば、大統領に権力が集中し、大統領のほぼ無制限の権力行使が可能になっている。例えば、
第一に、従来の首相職が廃止され、大統領が国家元首であるばかりか、政府首脳でもあり、自らの代理人たる副大統領および閣僚の任免権を有し、議会の承認を必要としない法律効果を有する布令の制定権も有している。
第二に、大統領も議会も2019年11月3日、5年の任期で選挙される。大統領の選出は2回に限定される。議会の質問は、副大統領と閣僚に対し、しかも文書質問に限定される。
第三に、議会の解散は大統領か、あるいは議会定数の5分の3の多数によって行われ、大統領と議会の選挙が同時に遂行される。なお大統領の選出は原則2回に限定されているが、これには裏口がある。つまり、議会が大統領の2期目の任期中に解散を行う場合、大統領は再び立候補が許される。なお改正憲法下では、大統領の任期が新たに始まるので、エルドアン大統領が19年に選出され、全てがうまくゆく場合、その任期が最大34年まで続く可能性がある。
EU主要諸国に占める在外トルコ人の割合は、ドイツ(約300万人、約4%)、オランダ(約40万人、約2・5%)、オーストリア(約40万人、約5%)である。しかも、ある国における一定外国人の絶対数が多いか、あるいはその割合が高ければ高いほど政治的・経済的影響を受け易くなる。その典型的用例として挙げられる国がドイツとオランダである。
トルコのエルドアン政権は、10年に在外トルコ人局を設置し、11年には在外トルコ人にも選挙権を付与した。その結果、17年4月16日の憲法改正国民投票に在独トルコ人約140万人の参加が見込まれている。エルドアン政権は、国民投票を成功させるためにEU諸国に大掛かりな集会を組織し、この集会への閣僚の出席を決定した。オランダとドイツは外国の政権が自国内で選挙戦を展開する事に不快感を表明し、実質的な集会禁止(例えば閣僚の入国禁止)措置を取った。
これらの諸措置に対し、エルドアン政権は、ドイツとオランダの政府を悪しざまに非難し、両国政府の諸措置を「言論および集会の自由を無視するナチス的・ファシスト的行為」と位置付けた。これに対し、両国の首脳は、トルコに対し、なかんずく「自国で実現していない、集会・言論の自由なる事項を他国に要求する権利をトルコは持たない」と反論した。
しかもドイツの保守系新聞ヴェルト紙のイスタンブール特派員(トルコ系ドイツ人)をスパイとテロリスト容疑で逮捕・勾留し続けている。
エルドアン政権の閣僚の一人がメディアを通してEUとトルコ間の難民協定を明示的に疑問視し始めた。いわく、トルコが自らの義務を遂行するのに対し、EU側がトルコに対する「ビザなし入国」の義務を遂行していない。トルコは、ギリシャに不法入国したシリア難民の再引き取りを停止することが可能だ。トルコが本格的にシリア難民の引き取りを拒否すれば、EU諸国は再び不安定化する。
さらにドイツとトルコの関係の負担となっている事項は、近年ドイツに対し庇護(ひご)権を申請するトルコ人の数が増大している事実である。彼らには数百人のトルコ外交官および北大西洋条約機構(NATO)軍人が数えられる。彼らに庇護権が付与されることになれば、彼らが政治的に迫害されている事実が明らかになる。エルドアン政権の不快感が想像に難くない。
それでもなおEU首脳はトルコに対して強気の態度を示している。EU委員会の委員長ジャンクロード・ユンカーいわく「EUに加盟するのはトルコであり、EUがトルコの加盟するわけではない。難民協定は維持されるべきである。われわれは、トルコによるドイツとオランダのナチス比較を受け入れない」。
ドイツ連邦憲法裁判所第2法廷は、17年3月8日の判決の中で、ドイツにおけるトルコの国民投票をめぐる催しへのトルコ首相の出席禁止に対する異議申し立ての事案の中で、なかんずく以下のように述べた。
「確かに、国家諸元首や外国諸政府のメンバーは、憲法によっても、国際法の一般規定によっても、(ドイツ)連邦領域への入国の請求権を有しない」
法的にはこれで決着がついたが、問題の全てが解決したわけではない。ドイツとトルコ両国間の文化的・宗教的相違があまりににも大き過ぎ、しかもどちらかというと、トルコ側に寛容の精神が欠落している現状からして、問題の解決は極めて困難と考えられる。
(こばやし・ひろあき)