露大使射殺、報復の連鎖を絶ち切るべきだ


 トルコでのロシア大使射殺事件を受け、両国は「テロとの戦いを強化」(ロシアのプーチン大統領)で一致、民間人をも巻き込んだシリアでの反政府勢力への攻撃が激化するのではないかと懸念が強まっている。

 シリアで民間人犠牲に

 射殺犯は、非番の警察官とされ、銃撃後「アラー・アクバル(神は偉大なり)。アレッポを忘れるな。シリアを忘れるな」と叫んだという。

 シリア第2の都市アレッポでは、ロシア、イラン、シーア派民兵などの後押しを受けたシリア政府軍が大規模な攻撃を行い、市内の反政府勢力はほぼ一掃された。だが、アレッポ攻撃で女性や子供を含む多くの民間人が犠牲となり、欧米を中心とする国際社会からは「戦争犯罪」との批判が強い。

 国連安保理は、市内に取り残されている民間人の退避と安全確保のために監視団を派遣することを決議したばかりだ。空爆によって破壊され尽くしたアレッポからはすでに大量の市民が退避しており、人道危機回避へ早急な支援が必要だ。

 シリアのアサド政権、ロシア政府はアレッポ制圧を「テロリスト殲滅(せんめつ)のための戦争であり、戦争犯罪ではない」と強弁する。両者とも反政府勢力をテロリストと位置付けているが、大量の民間人犠牲者を出したことを正当化する理由にはならない。

 プーチン大統領とトルコのエルドアン大統領は、大使射殺事件を受けてテロとの戦いで協力を強めることを明らかにした。

 米国はシリア内戦で反政府勢力を支援し、アサド政権の退陣を求めてきた。トルコ政府も同様の立場を取ってきたが、ここにきて大きく変わっている。

 トルコは、反政府勢力を標的とするアレッポ掃討作戦にも協力、エルドアン大統領はアサド政権退陣要求を取り下げたとの見方も出るなど、ロシアへの歩み寄りを強めていた。

 射殺事件直後には、ロシア、トルコ、イランの外相が会合を行い、シリアの和平協議仲介と停戦への支援で合意した。昨年9月のロシアのシリア内戦介入以降、影響力が低下していた米国の影はすでに見られない。

 ロシアは中東での唯一の拠点としてのシリアを確保できる。イランがシーア派の一派アラウィ派を支持基盤とするアサド政権を支援し、シリアとレバノンで影響力を強めるのは必至だ。

 昨年11月のロシア軍機撃墜事件で関係が悪化したロシアとトルコは今年6月に和解した。トルコが悲願としてきた欧州連合(EU)加盟に向けた交渉は、人権問題などが障害となって進んでいない。ロシアへの接近とともに西側との距離は広がるばかりだ。

 射殺事件は、イスラム教徒としてのアレッポ市民への連帯感が背景にあるとみられる。トルコではエルドアン政権の強権支配、イスラム化の下で、反政府クルド人勢力、過激派勢力「イスラム国」(IS)などによるテロが頻発している。

 国際社会は一層の関与を

 事件を受け、民間人の犠牲者を伴う空爆が強化されれば、報復の連鎖はさらに続くことになる。停戦、和解へとつなげる国際社会の一層の関与が必要だ。