ロシア軍撤退、シリア和平につながるか懸念
ロシアのプーチン大統領は、過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討を名目に空爆を実施してきたロシア軍の主要航空部隊に対し、撤退命令を下した。
シリア和平協議を後押しするものと評価する声も上がっている。だが、ロシアには自国の利益を優先する思惑が見え隠れしており、和平につながるか懸念される。
背景に厳しい経済状況
シリアでは先月末に停戦が発効し、今月半ばには内戦の政治的解決を目指し、国連の仲介による政権側と反体制派側との和平協議がジュネーブで再開された。仲介役のデミストゥラ国連特使はロシア軍の撤収を「大いなる進展」と評価するとともに「和平協議に好影響をもたらす」と語った。
ロシアは昨年9月末からISの拠点への空爆を開始し、9000回を超える出撃を行ってきたが、シリアのアサド政権と対立する反体制派は、ロシア空軍はISでなく反体制派を攻撃していると非難し、今年1月末に始まった和平協議の障害となっていた。協議は2月初めいったん中断された。
プーチン大統領は、空爆の目的の多くが達成され、和平協議の条件整備に貢献したと強調した。ショイグ国防相は約5カ月半にわたる空爆でロシア出身の2000人以上のIS戦闘員を殺害し400以上の地域をISから解放したと報告。大統領はこれを受けて、協議を加速させるように指示した。
ただし、プーチン大統領は、主要部隊を撤退させるものの、停戦監視のため、ロシア空軍部隊の前線拠点となっているシリア北西部ラタキア近郊のヘメイミーム空軍基地と、軍需物資の中継基地として機能した地中海沿岸のロシア海軍の拠点タルトス港への軍部隊駐留は続ける方針を明らかにした。
大統領の撤退命令は唐突に出されたため、その動機についてさまざまな憶測がある。空爆にかかる費用は1日当たり400万㌦(約4億5000万円)とされ、原油安やウクライナ危機を受けての欧米による経済制裁の影響でロシア経済が厳しい中、無制限に続ける余裕はない。
このような苦しい台所事情を背景に、作戦の長期化を避けたとの見方もある。この意味で、今回のロシアの動きは、制裁が効果を上げていることを示しているとも言えよう。
また、シリアの和平に向けたプロセスの中で、ロシアが主導権を握って国際的な孤立の打開を狙ったとの見方もある。だが仮にシリア和平が実現したとしても、それでロシアへの制裁が解除されるわけではない。
多くの自国民を殺害したアサド政権に正当性はない。ロシアはシリアにおける権益を守るため、アサド政権を支援しているが、こうした姿勢が国際社会の理解を得られるかも疑問だ。シリア和平の実現を遠のかせることにもなりかねない。
内戦終結が最優先だ
シリア内戦による死者数は27万人を超え、国外に逃れた人々は480万人以上に上る。
米露を含む関係国は内戦終結が最優先であることを改めて確認し、そのために協調することが求められる。