課題多く楽観はできないイラン核合意


 米欧など6カ国とイランはイランによる核開発の計画を縮小する枠組みで合意した。中東での核拡散を阻止し、オバマ米大統領が追求する「核なき世界」への新たな一歩となり得る成果だ。だが残された課題は多く、楽観は許されない。米、イランがそれぞれ独自の文書を発表し、合意内容の解釈に違いが生じているからだ。

 解釈の違いで対立の恐れ

 米政府は「イランは厳しい査察を受け入れることに合意した」と述べたが、イランは逆に「核開発の継続を認められた」と強調し、力点の置き方が違っている。

 イランへの制裁について、米側文書は「完全解除ではなく、一時停止」とし「イランが約束を破れば元に戻す」と明記しているが、イラン側はこれに反発している。一方、イランの文書では米側が要求している国際原子力機関(IAEA)の検証に触れていない。

 こうして双方が都合よく解釈できる合意となったのは、オバマ大統領が強硬派の多い共和党、イランのロウハニ政権が国内の対米強硬派の批判にそれぞれさらされているためだ。

 一番問題となりそうなのはイランの軍事施設の査察だ。米側は「受け入れないと考えるのは難しい」と述べ、査察対象になるとの考えを示した。これはイランが過去に軍事施設を隠れみのに核開発をしてきた疑いがあるからだ。

 しかしながら米側の発表では「隠れてウラン濃縮をしている疑いのある施設」について「イランは調査を要求される」というだけの弱い表現になっており、将来6カ国側とイランが解釈の違いで対立する可能性が残されている。

 合意のポイントはイランの高濃縮ウラン製造能力を抑えて核兵器開発を10~15年間制限することであり、イランの核開発技術・施設そのものの完全廃棄を求めるものでない。イスラエルなどはイランの核兵器保有の道をふさぐことにならないと懸念している。

 さらに今回の合意によるイスラム教シーア派国のイランと米国の接近は、親米でスンニ派国のサウジアラビアなどに対米不信感を与え、中東の新しい波乱要因となる恐れもあろう。

 米国とイスラエルとの関係も憂慮される。オバマ大統領は電話でイスラエルのネタニヤフ首相に合意を説明したが、ネタニヤフ首相は「イスラエル存続への脅威は変わっていない」と非難した。

 弾道ミサイルを保持するイランが核を持てば、イスラエルは核攻撃の脅威にさらされる。このためイランの核開発が続く場合は、核関連施設への攻撃も辞さないという構えだ。

 決定的対立の回避が成果

 成果は米、イラン両国が決定的な対立に陥らず、最悪の展開はひとまず避けられたことだ。その理由として、両国が過激派組織「イスラム国(IS)」という共通の脅威に直面していたことが挙げられよう。さらにイランが核開発を行えば、核を持つイスラエルの戦力強化や、サウジやエジプトが核保有に動くというドミノ現象の恐れがあったことも背景にある。

(4月6日付社説)