長引くイエメンの混乱はテロの温床に


 イスラム教シーア派武装組織とイエメン政府・軍との衝突をめぐる混乱が激化している。シーア派対スンニ派という宗派対立の様相を呈しており、周辺地域への波及も予想される。

宗派対立の様相呈する

 イエメン北部を拠点とするシーア派の一派「フーシ派」が勢力を強めたのは2011年の「アラブの春」で国内が混乱してから。30年以上にわたって同国を支配してきたサレハ前大統領は退陣圧力を受けて12年に辞任した。政権移行にスンニ派の隣国サウジアラビアが関与したことから、フーシ派が反発し、武力闘争を開始した。

 サレハ前大統領はシーア派で強権支配で知られていた。後任のハディ暫定大統領はスンニ派だ。フーシ派は昨年の夏ごろから攻勢を強め、ハディ政権が各地の部族勢力や過激派に翻弄(ほんろう)され迷走する中、首都サヌアに進出。今年2月には事実上のクーデターを起こして政権を乗っ取った。

 周辺アラブ諸国は、フーシ派がシーア派の大国イランから武器支援を受けているとして警戒を強めている。ハディ大統領は「フーシ派はイランの操り人形」と強く非難した。

 イランはシーア派の支配を強めるイラク政権、シリアのアサド政権を支援しているとみられている。さらに、レバノンのシーア派民兵組織ヒズボラ、パレスチナのスンニ派過激組織ハマスをも援助しているとされ、各地で影響力の確保を狙い、混乱を引き起こしている。

 これまで中東内の混乱に米国主導での対応に終始してきたアラブ諸国が、今回のイエメンに関して独自の動きをしていることは注目すべきだろう。サウジ主導で行われているイエメン空爆にはスンニ派が多数派のアラブ諸国が参加している。

 クウェート、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーンのペルシャ湾岸諸国、エジプト、スーダン、ヨルダン、モロッコなどだ。米国は軍事介入を支持し、後方支援と情報を提供しているが、攻撃には参加していない。一方、シーア派が多数のイラク、レバノンは空爆に反対するなど、スンニ派対シーア派という対立軸が鮮明になっている。

 中東・北アフリカ22カ国・地域が加盟するアラブ連盟は、エジプトで開催した首脳会議で「アラブ合同軍」の創設で合意した。エジプトのシシ大統領が提唱したもので、シリア、リビアさらにイエメンなど、域内の混乱へ危機感を募らせていることの証左だ。

 リビアではカダフィ政権崩壊後、アルカイダ系組織が勢力を増し、部族間の対立が強まるなど依然として安定しない。内戦後、大量の武器が「イスラム国」に流れ、人材補給基地になっているともみられている。

安定化へ早急な対策を

 イエメンの混乱が続けば、域内のイラン対アラブ、スンニ派対シーア派の対立が激化することは必至だ。

 このまま権力の空白状態が続けば、イスラム国、アルカイダなどの過激組織が付け入る隙を与えることにもなりかねない。フーシ派掃討、国内の安定化へ早急な対策が必要だ。

(3月31日付社説)