「過激組織IS」とイスラーム
命令権はアッラーだけ
混乱の利益に群がる残党ら
シリア、イラクに広がる広大な沙漠にアラビアンナイトの亡霊に似た群団が突如と出現、水と食糧と財産を求めて扇形にユーフラテス川沿いに拡大北上、行く先々の町を占拠し、搾取し、多くの住民を殺害、挙げ句の果て「イスラム国」の建国、「カリフ制復活」を宣した。この盗賊にも似た集団の出現に国際社会もまたイスラーム世界も大いに戸惑ったのはその名前に由来するが、今、納得のいく名前が付けられた。「過激組織IS」である。
この名前が妥当であるか否かの判断はともかく、イスラーム世界はこれをまともなイスラーム教徒の集団と認めることを避け、また国際社会もイスラーム世界に配慮してかイスラーム世界と切り離すべき集団であるとの見解を示した。そして生まれた「過激組織IS」という名であるが、その内容は組織というよりも様々な集団の集まりであり、それ以上のものではないと判断される。この集団は利益を求めての寄せ集め集団であると見なすべきものである。よって「過激集団 IS」と呼称すべきであろう。
さて、この過激集団がなぜイスラーム世界から追放されずにいるのか。「カリフ制の復活」を謳(うた)うことは今のイスラーム世界に反しているのではないか。なぜ悪行の限りを尽くす彼らをイスラーム世界は見逃しているのか。なぜイスラーム世界からの追放を宣することができないのか、もしくは異端宣言をもって存在を否定することができないのか。――多くの疑問が多くの人に生まれた。
すなわちイスラーム集団と言えるか否かの判断がイスラーム世界に求められているように見える。イスラーム教徒によって起こされた問題であることからイスラーム教徒によって解決すべきだという要求は当然生まれる。だが、イスラーム世界はこの問題に関していかなる判断も下さず、国際世界とともにIS攻撃に参加し、ISに対する攻撃をイスラーム世界単独で行うということはない。彼らの行動はあくまでも国際的な秩序の中での行動に留まっている。
なぜイスラーム世界はISに対する姿勢を明確化できないのか。それはイスラーム教ではアッラーと教徒の間に立ち入ることが禁止されており、それゆえ彼らがイスラーム教徒か否かの判断ができないことになっている。それができるのはアッラーだけであり、最後の審判が下る時に神アッラーの判断が示され、ISがイスラーム教徒であるか否かの答えが出されることになる。よって今、イスラーム教の世界ではISが本当のイスラーム教徒か否かの判断を出すことができず、この問題に対する世界の批判、疑問に答えることができないという苦悩の中にいる。
イスラーム教徒は他のイスラーム教徒の行動を批判することはできるが、是正を命令することはできない。過激派と言われる集団はこのイスラーム教の基本的な法、アッラーと教徒の間に立ち入ることを許さないという法を破り、教徒に命令する特殊な集団である。
エジプトのカイロにあるアズハル大学は西暦970年に創設されたイスラーム大学であるが、この大学の総長はその意味でイスラーム世界の一つの権威として認められているものの、全世界のイスラーム教徒に影響を与える立場にはない。この問題に対する彼の発言は時々注目を集めたが、発言はあくまでも見解であり判断ではない。判断はアッラーのみできる権限である。
イスラーム教徒による解決はイスラーム教ゆえ難しい。アッラーしか命令権を持たないこの宗教では主権はアッラーにあり教徒にはない。主権在神がイスラーム教の特徴であり全てである。
4月に入ると、沙漠世界は酷暑の日々に変化する。その4月に世界はIS撲滅作戦を開始するものと予測されている。イスラーム諸国は空爆に参加するが、地上軍の参加はイラク軍、自由シリア軍以外は今のところ発表されていない。あくまでもシリア、イラクの国内問題として処理し、周辺のイスラーム諸国は地上軍派遣を考えていないようだ。
唯一考えられるのは復讐に燃えているヨルダン軍であるが、今のところ具体的な発表はない。しかし、イラク軍を主流にした攻撃陣にはトルコ・シリア、イラク国境に布陣するクルド軍が山腹を南下し、モスル、アレッポなどの占領区を解放させることはできると思われるが、その南に広がる沙漠地帯での戦闘では困難が予想される。評判の良いクルド軍、強力なトルコ軍は、アラブ世界内での戦争には消極的であり、関心は低いと思われるからだ。
また、アラブ世界もシリア、イラクの沙漠を支配する部族集団、ルアッラ、シャンマル、トカ、カァブ、ドライム、ズバイド等々の諸部族との関係を悪化させることは間違いない。また、ISを構成している故サッダーム政権のバース党や旧軍などの残党たち、そしてバース党以外の少数の政党集団、混乱をチャンスとして集まった利益目的の過激集団等々による非連帯的な集団の集まりであるISは分裂し、拡散し、周辺各地への侵入を図り、逃げ延びるため必死の道を探ることになる。もし周辺アラブ諸国の地上軍が動き出さなければ、それは現実的な戦場の拡大となり紛争は慢性化する懸念すべき問題となる。
(あつみ・けんじ)