シシ・エジプト大統領、イスラム教義から暴力思想一掃指示

 エジプト人の大多数は、イスラム教スンニ派過激派組織「イスラム国(IS)」や国際テロ組織「アルカイダ」などイスラム過激派諸組織の元締めは、イスラム根本主義組織「ムスリム同胞団」だと考えている。シシ・エジプト大統領はさらに、過激派諸組織がテロを頻発させる原因を、コーランの中にある暴力正当化の言葉を厳密に教義化した「イスラム教義」にあると指摘、過激派諸組織の源流スンニ派の最高権威アズハルに対し、教義の中から暴力思想を一掃する「宗教(イスラム教)改革」を求めた。(カイロ・鈴木眞吉)

外務省報道官「源流は同胞団」

中東で信頼失うオバマ政権

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過激派組織「イスラム国」がリビアで拘束したエジプト人を殺害したとする映像を公開したのを受け、シシ大統領(中央)が出席して開かれたエジプト軍最高評議会=2月15日、カイロ(AFP=時事)

 ムスリム同胞団は1928年、西洋からの独立とイスラム文化の復興を掲げて、ハサン・バンナーによりエジプトで結成された。世俗法でなく、イスラム法(シャリア)により統治される「イスラム国家」の樹立を目標にし、広くアラブ・イスラム諸国に拡大、欧米諸国にも支部や関係組織を持つ。

 同胞団の理論家サイエド・クトゥブは、「武力を用いてでもジハード(聖戦)により真のイスラム国家の建設を目指すべき」とするクトゥブ主義を唱え、暴力路線を主導した。

 クトゥブに続いて同胞団の理論家となったのがパレスチナ人のアブドラ・アッザームで、アルカイダの創始者ウサマ・ビンラディンの師だ。イスラム国でカリフを自称するアブバクル・バグダディは、ビンラディンに忠誠を誓ったヨルダン人のアブムサブ・ザルカウィが設立した「イラクのアルカイダ(AQI)」を引き継いでいる。

 こういう関連を確認すれば、現在の全イスラム過激派の元締めはムスリム同胞団で、彼らは「穏健派」を装いながら実質全組織を束ねてお互いの共通目的である「イスラム国家創建」「オスマン帝国の再現」「全世界イスラム化」を推し進めていることが見てとれる。

 エジプト外務省報道官のバドル・アブデルアッティ氏は3月3日、邦人メディアを集めたブリーフィングの中で、「全過激主義組織の元締めはムスリム同胞団だ」と強調した。アルアハラム政治戦略研究所研究員モハメド・ファイエズ氏は「イスラム国と同胞団は全く同質」と指摘した。イスラム過激派諸組織はコーランの暴力思想を最大限に利用してもいる。

 ムバラク前エジプト大統領は、このことを見抜いていたため、同胞団を「過激派を産み育てる温床」と規定、警戒を怠らなかった。シシ大統領は、暫定政権時代の2013年12月、同胞団をテロ組織に指定、エジプトの裁判所は2月28日、ハマスをテロ組織に指定した。

 同胞団は目標実現のため、シリアではアサド政権に対抗する反政府勢力の一大中心として活動、ヨルダンでは、議院内閣制採用と国王の権限縮小を求めて勢力を拡大、リビアでは、カダフィ大佐死後の12年3月、政党「公正建設党」を設立、国際社会が認める暫定政権を東部トブルクに追放、首都トリポリにイスラム勢力による独自の政府と議会を創り、主導している。

 米国の中東政策の最大の誤りは、こともあろうに、紛れもなく民主主義とは正反対の宗教独裁を目指す同胞団を、将来の中東の中心勢力に据え、トルコとカタールと組んで支援していることだ。

 エルドアン・トルコ大統領がれっきとしたイスラム主義者(民主主義者ではない)であることは、同氏が初代党首である公正発展党が、近代トルコの父ケマル・アタチュルクが国是とした「政教分離による世俗主義」に反するとして解散させられた「イスラム主義政党」(美徳党、福祉党、国民救済党、国民秩序党)を引き継いだものであることが証明している。

 米国とトルコは2月27日、シリア反体制派への訓練や装備の供与を3月1日から始めると発表した。これは実質、同胞団支援を意味しており、禍根を残しそうだ。トルコはアサド政権打倒を最優先とし、イスラム国掃討は繕いに過ぎないからだ。

 オバマ氏の中東への無知はアラブ諸国指導者の絶望と不信を招いた。次期米大統領選有力候補者ジェブ・ブッシュ元知事も「優柔不断」と酷評させた。暗殺されたサダト元大領領の甥の、アンワール・サダト改革発展党党首は「オバマ氏は中東諸国から完全に信用を失った」と指摘、「信用再獲得は、共和党出身の新大統領のもと始まる以外にない」と断言、慨嘆した。