挙国一致でイラク分裂の危機打開を


 イラクでは、イスラム教スンニ派の過激組織「イスラム国」が「カリフ(預言者ムハンマドの後継者)」を最高指導者とする政教一致のイスラム国家樹立を宣言したことで、分裂の恐れが強まっている。

 現在の危機的状況を打開するためには、宗派や民族の違いを超えた挙国一致政権の樹立が急がれる。

過激組織が国家樹立宣言

 イスラム国がイラク北部の200万都市モスルを制圧してから1カ月が経過した。敵視するシーア派のイラク兵らを次々に処刑する一方、主にスンニ派が暮らす制圧地域では地元住民を懐柔して支配基盤固めを進めている。戦闘員は各地の銀行や政府機関を襲撃して多額の現金を奪い、恭順の意を示す住民に配るなどして人心掌握に努めているという。

 シーア派のマリキ政権の下でかつての権勢を失った地元部族や旧フセイン政権関係者らは、政府軍撤退を「スンニ派革命」と吹聴してアピールに腐心。結果的にイスラム国との共闘関係が成立している。

 イスラム国はイラクとシリアにまたがる地域での国家樹立を宣言した。求心力を高め、支配地域の拡大を加速させる思惑がある。

 マリキ政権はシーア派を優遇し、少数派のスンニ派やクルド人を疎外した。このことが過激派の勢力拡大につながったとみていい。北部3州のクルド人自治区の指導者バルザニ議長も、独立に向けた住民投票実施を宣言した。

 イラクやシリア、レバノンなどは、第1次世界大戦中に英仏露がオスマン帝国領の分割について交わした合意を基に誕生したこともあって、地域の各部族・宗派間では国民意識が醸成されていないのが現状だ。イラクでクルド人独立の動きが強まれば、隣国のトルコ、イラン、シリアで暮らすクルド人の民族感情が刺激されよう。

 このままでは、イスラム国支配地域とクルド人自治区が、シーア派が多数を占めるイラクから分裂する恐れがある。しかし、過激派の台頭によってイラクが引き裂かれれば、中東の不安定化は避けられない。まずは過激派を掃討し、秩序を回復する必要がある。

 イラク軍はイスラム国の首都進撃こそ阻んだものの、失地回復は進んでいない。それは士気低下が深刻なためだ。

 軍にはマリキ首相が個人的に権限を行使する最高司令官室が設置され、能力がなくてもマリキ氏に忠実な人物が司令官に任命されているという。こうした状況を改め、指揮系統を立て直すべきだ。

 マリキ氏に対しては、同じシーア派の中からも首相辞任要求が高まっている。しかし、マリキ氏は4月の議会選で自身が率いる「法治国家連合」が第1勢力となったことから続投を目指す構えだ。他に有力な候補が見当たらないことも、強気の姿勢を崩さない理由だろう。

国際社会は支援強化を

 マリキ氏はシーア派優先の姿勢を改め、国民融和に努めなければならない。国際社会もイラクの安定に向け、支援を強化する必要がある。

(7月12日付社説)