北ミサイル発射に甘い対応では付け込まれる


 北朝鮮が日本海に向けて弾道ミサイルを発射した。日本政府は厳重抗議したが、北朝鮮が日本人拉致被害者らの安否を調査する特別委員会を設置した折でもあり、批判が抑制的であったのは残念だ。

 北朝鮮の弾道ミサイル発射は国連安全保障理事会決議に違反する暴挙であり、絶対に容認できない。政府は拉致問題と切り離し、国際社会と歩調を合わせ、危険極まりないミサイル発射を断固として非難すべきである。

 対日交渉への誠意疑う

 拉致問題の解決に向け、政府が北朝鮮の再調査開始に応じて対北制裁の一部解除に踏み切ったのは早計だった。北朝鮮を動かし得るのは国際的な圧力であることをわれわれは忘れてはならない。日本が先行して融和策を取れば、日米韓の分断を狙う北朝鮮を喜ばせるだけだ。そして政府の意図とは逆に拉致解決を遅らせることになろう。

 北朝鮮は1日の日朝協議を挟み、この2週間で計4回、弾道ミサイルを発射している。協議の冒頭、日本は暴挙を繰り返さないよう要求したが、完全に無視された。発射は対日交渉への誠意を疑わせるものだ。政府は北京の大使館ルートを通じて抗議した。

 政府関係者は「拉致問題は極めて人道的な問題であり、ミサイル発射があったとしても協議の扉を閉めることにはならない」としている。そのような“甘い態度”に北朝鮮が付け込み、今回のミサイル発射となったことを忘れてはならない。

 政府はこれまで拉致・核・ミサイルの「包括的な解決」を掲げてきたが、5月末に公表された日朝の合意文書には核・ミサイルの文言は含まれていない。拉致解決を優先するあまり、核問題への対応が甘くなって北朝鮮の暴挙を招いたと批判されても仕方があるまい。政府は北朝鮮に足元を見られていることを自覚すべきである。

 拉致被害者家族の高齢化は著しい。安倍政権が拉致解決を重視することは理解できるとしても、焦ってはならない。北朝鮮のミサイル発射は国際社会への脅威である。わが国だけが曖昧な態度を取ることはできないはずだ。

 一方、唇歯の間柄とされてきた北朝鮮と中国との関係は、昨年2月の北朝鮮の核実験強行などで悪化の一途をたどっていると言われる。中国の習近平国家主席は北朝鮮より先に韓国を訪問し、朴槿恵大統領と首脳会談を行った。北朝鮮は中国への反発を強め、朝鮮労働党機関紙「労働新聞」も「大国主義者」という表現で中国を暗に批判した。

 ミサイル発射は、日米韓連携への揺さぶりとともに北京で開かれた米中戦略・経済対話への牽制(けんせい)を狙ったものとの見方もある。日本はこうした情勢も踏まえながら、対北外交を進めることが肝要だ。

 日米韓は連携強化を

 われわれは度重なる北朝鮮の暴挙を許してはならない。日米韓は連携を強めて対応する必要がある。

 政府は米韓両国と、北朝鮮のミサイル技術についての情報分析を急ぐとともに、警戒態勢を強化すべきである。

(7月11日付社説)