今こそ文大統領は曺氏去就で決断を


韓国紙セゲイルボ

国を滅ぼしつつある「独善」

 また街頭だ。今度は二つに分かれた。3日ソウル光化門広場で曺国法務長官辞退を求める保守陣営集会が、5日瑞草洞では“曺国守護”と検察改革を叫ぶ進歩陣営の集会が開かれた。いわゆる“曺国内戦”だ。

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3日、ソウル市中心街で行われた曺国法相辞任などを求める保守派の大規模集会=YouTubeチャンネル「先駆者放送」のチャプチャー画面より

 国民は考えが違うという理由で言い争いをし、互いに排斥して敵対する、国が真っ二つになったという言葉を実感する。

 独善という言葉が思い出される。本来は“独善其身”わが身の振り方だけを完全にするという意味だった。『孟子』の尽心篇にある一節だが、後に意味が変質して、自分と自分の側だけが正しいと信じて行動することをいうようになった。

 中国明代の著作家・洪自誠は『菜根譚』で、「利益をむさぼることが心を害するのではなく、自分だけが正しいという考えがまさに心を害する」といった。

 われわれは自らを省みる時だ。国が二つに割れたことは政治の失敗を物語る。政治学者ケネス・ミノーグは、『政治とは何か』において、「政治はわれわれが生きていく日常の世界を難しいながら支えること」とし、「政治とは人間の暮らしの総体的な構成枠を維持する活動」といった。

 政治がこうした正しい任務を全うできないから、市民が街頭に出るのではないのか。さらに政治家までが街頭に出て、何人集まったかを詰めるのが韓国の現実だ。

 文喜相国会議長は5日、野党代表と会い、「分裂の政治、派閥政治、扇動の政治が危険ラインに達した」として、「国民は国会と政界に注目しているが、われわれは陣営同士の争いに埋没し、国民を街頭に追いやり、その日常まで揺るがしている」と語った。国会が対立調整機能を果たせず、政治が失踪する事態を招いたとの指摘だ。

 “曺国事態”一色の政界は韓国社会で無党派層が拡大する現象を厳重な警告として受け入れるべきだ。独善が国を滅ぼしつつあることを国民が知らないわけがない。政界が来年の総選挙を控えて、何が選挙に有利かだけを計算していることもよく知っている。

 国のこの有り様に対して、政権は責任を負わなければならない。曺国でなければ検察改革ができないという論理を国民は納得しない。曺長官家族に対する捜査が進められているのに、彼が職務を遂行している現状を誰が受け入れられようか。

 文在寅大統領は今こそ曺長官の去就に対する決断を下し、政治空間を蘇らせ、対話で問題を解決していく時ではないのか。政治力を今でなくて、いつ発揮するのか。

(朴完奎論説室長、10月8日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。

ポイント解説

祖国内戦・曺国内戦

 韓国語で「祖国」も「曺国」も同じ発音である。「曺国で祖国を滅ぼすのか」と保守派が語呂合わせで言ったりする。朴槿恵前大統領を退陣に追い込んだ「ろうそくデモ」をユネスコにでも登録しそうな勢いで誇る韓国左派だが、今度は自分が同じデモを仕掛けられている。

 ソウル中心部の光化門広場から市庁前までの約2㌔㍍を群衆が埋め尽くしたのだ。いつの間にか「ろうそく革命」と言い換えたかつてのデモに劣らない規模の保守派集会が「曺国退陣、文在寅退陣」を求めて行われた。「500万人」といっているが確かな数字は分からない。いずれにせよ、とてつもない数の人々が集まった。

 それでも、文大統領は曺国氏を法相から外さないし、自らも椅子を降りる気などさらさらない。なぜなら、負けないくらいの勢力が、場所を変えてデモ集会し、文支持、曺支持を叫んだからだ。それが江南の瑞草洞での曺国支持の集会「200万人」だった。

 両者とも一歩も引かない構えを崩さない。なので「国が真っ二つに割れた」と言っている。このまま力比べが続けば、国の分裂は深刻な状況になるだろう。しかも来年4月の総選挙までこれが変わらないとなれば、政治だけでなく、経済や外交に及ぼす影響も計り知れない。

 自らは正しく、相手は正しくないと「独善」に陥っている状態を打開するには、まず権力を持っている側が動くべきだとの論理は韓国ではよく聞く。だが権力側が譲ったためしがないのも歴史だ。次の週末も双方の集会が続くようだ。その果てには何があり、何が残るのか、注目せざるを得ない。

(岩崎 哲)