日本政府による輸出規制措置の狙い


韓国紙セゲイルボ

参院選勝利へ韓日対立を争点化

 日本政府の輸出規制措置で韓国の半導体・ディスプレー輸出戦線に赤信号が灯(とも)った。韓国政府は緊急経済関係閣僚会議を開き、日本の輸出制限措置に対して世界貿易機関(WTO)に提訴するなど、国際法と国内法により対応措置を取っていくことにした。輸入先多角化なども模索する。

文在寅大統領(手前左から2人目)と安倍晋三首相(中央右)

G20サミットのセッション3開始前に韓国の文在寅大統領(手前左から2人目)と握手を交わした後、厳しい表情を見せる安倍晋三首相(中央右)=6月29日午前、大阪市住之江区(代表撮影)

 しかし、WTO提訴は手段の一つだが効率的ではない。何より長期間かかり、直接的な被害を受ける関連業界の実質的な助けにはならない。日本が世界市場で輸出規制商品を独占している状況ではなおさらだ。同じ理由で輸入先多角化も直ちに現実化することは容易ではない。

 今回の事態の発端が韓国大法院(最高裁)の強制徴用被害者賠償判決などのような非経済的事案という点も、政府の対策づくりを難しくしている要因だ。

 大法院判決後の昨年11月、韓国政府は日本政府の拠出金10億円で設置された「和解癒し財団」の解散を宣言し、同年12月20日には自衛隊の哨戒機が韓国海軍艦艇に向かって低空威嚇飛行する事態が発生。3月には麻生太郎財務相が韓国を狙った経済報復措置を示唆していた。

 日本が今年5月、韓日請求権協定に基づく「仲裁委員会の設置」を提案したが、韓国政府はこれに応えず、報復措置が出てから外交部が慌てるという格好だ。

 安倍晋三首相は21日投開票の参議院選挙を控えて韓国に対する経済報復カードを持ち出したと分析される。最近、安倍首相の政治的状況は内憂外患に近い。野党が老後に年金の他に2000万円の蓄えが必要だという金融庁の報告書を争点化し、与党は危機状態だ。6月24日更新のNHK調査では安倍首相の支持率は6%ポイントも急落した。

 トランプ大統領の米日安保条約への不満、露日平和条約交渉の停滞、韓日首脳会談の失敗など、安倍式外交の限界が露呈し、支持率は足踏み状態だ。

 こうした状況で出てきた今回の措置は、参院選を控えて明確な報復措置を取ることによって、韓日対立を争点化して与党・自民党に有利な選挙の雰囲気を醸し出す意図と解釈される。

 日本政府はこれまで、経済報復の時期を日本企業の「被害(売却申請資産の現金化)」が現実化される8月頃と見ていた。結局、安倍首相は意欲的に推進する改憲の分水嶺となる参院選を控えて、予想より早く報復カードを切ったわけだ。

 だが、日本国内でも自由貿易逆行と韓国の脱日本化を憂慮する声が出てきている。経済紙は、「劇薬ともいえるこの措置は長い視点で見れば、副作用が大きい」として、「(韓国が)半導体の素材などで日本離れを加速させる恐れがある」と警告。それと共に、「サムスンなどは、中期的に代替取引先の確保を進める可能性がある」と展望した。

 申景浩国士舘大アジア学部教授は、「安倍首相が参議選を控えて報復カードを切ったという性格が強い」として、「この危機を1965年の韓日国交正常化以来続いてきた対日赤字構造を解消する機会にしなければならない」と指摘した。

(禹相圭・鄭ソンヒョン記者、東京=金青中特派員、7月2日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。

ポイント解説

つながらぬ「報復」と「参院選」

 韓国では、安倍首相が参院選で有利な雰囲気をつくるために韓国報復措置を出したと信じている。「韓国を叩(たた)いて人気を得ようとしている」という分析だ。

 しかし、韓国メディアが好んで引用するNHKの調査では、参院選の争点として「外交・安保」は9%にすぎない。多くは社会保障(32%)、経済政策(20%)、消費税(19%)、憲法改正(6%)と続いており、7割超は国内問題を挙げている。

 仮に外交・安保の中に「韓国」が含まれるとしても、北朝鮮の核・ミサイル、対中・対露外交、インド太平洋戦略、シーレーン防衛等々、重量級の課題を押しのけて位置を占めているとは考えられない。つまりもともと韓国を叩いたところで支持率アップや人気取りは期待できないということだ。

 もちろん最初からそのつもりがなかったことは明らだ。そもそも日韓請求権協定に基づく仲裁委員会設置という手続きに韓国が応じなかったことが原因である。それを棚に上げて、「韓国叩きをしている」というのは自意識過剰にもほどがある。

 それに、この事態は韓国大法院(最高裁)の判決が出てから8カ月も“猶予”があった。十分に予測され、準備期間もあったにもかかわらず、韓国はなんら具体的な手を打ってこなかった。今になって右往左往するのは韓国のいつものパターンである。

(岩崎 哲)