自由貿易交渉加速させる南米
EUとFTA合意で巨大市場誕生へ
南米南部共同市場(メルコスル)が自由貿易交渉を加速させている。主要国のブラジルとアルゼンチンで自由貿易派の政権が誕生したことが大きい。欧州連合(EU)との自由貿易協定(FTA)合意は、日本の対メルコスル戦略にも影響を与えそうだ。(サンパウロ・綾村悟)
日本との交渉にも期待
メルコスルとEUが先月28日、ベルギーのブリュッセルでFTAの合意に達した。トランプ米大統領が始めた貿易戦争が世界経済に影を落とす中、自由貿易の発展を促すニュースとなった。
このニュースは、大阪で開催された20カ国・地域首脳会議(G20サミット)や韓国・板門店での米朝首脳会談で影が薄れたが、世界経済の約3割を占めるEUと、中南米全体の国内総生産(GDP)の半分以上を占めるメルコスルとの間でFTAが合意されたことに、ブラジルのボルソナロ大統領は「歴史的だ」とその意義を強調した。
メルコスルとEUのFTA協議は、1999年に始まった。牛肉や農産物のEU市場向け輸出を増やしたいメルコスルと、自動車や関連部品の輸出を加速させたいEU側の思惑は、関税撤廃の時期などをめぐって対立。ブラジルやアルゼンチンの左派政権下で交渉が停滞したこともあり、合意には実に20年もの歳月がかかった。
交渉が加速したのは、ブラジルとアルゼンチンで自由貿易と投資の拡大を推進する保守派政権が誕生したことが大きい。特に、今年1月に誕生したブラジルのボルソナロ政権は「経済と市場を開放してブラジル経済を大きく変える」と主張。市場重視派のゲデス財務相を先頭に、自由化を積極的に進めてきた。
今後、協定が発効するためには、欧州議会や加盟各国での議会承認などが必要なる。正式に発効すれば、人口7億8000万人で域内総生産が19兆ユーロ(約2300兆円)にもなる巨大貿易圏が誕生することになる。EUがこれまでに結んだ貿易協定では、日本がEUと結んだ経済連携協定(EPA)に次ぐ規模のものとなる見通しだ。
また、南米から欧州への物品輸出は、92%が関税撤廃対象となることが予想されており、経済停滞に苦しむ南米の主要国ブラジルとアルゼンチンにとっては、今回の合意は次期大統領選挙にもつながる大きなものだ。
ブラジル国内の報道では、協定発効から15年で最大1250億㌦ものGDP拡大が期待されている。雇用創出や貧困率の低下、成長や投資の拡大など、まさに「国民に大きな恩恵をもたらす」(ボルソナロ氏)可能性を含んでいるわけだ。
いまだ人口や購買力のある中流層が増え続けている南米の現状を見れば、メルコスルとの自由貿易交渉を望む経済圏や国は増えていくことが予想される。
メルコスルは、現時点でも約2億5000万人の人口と約2兆4000億㌦のGDPを持つ巨大市場だ。メルコスル内での自動車販売台数は400万台を超えており、FTAで輸出障壁が無くなれば、インドに並ぶ魅力的な市場になる。
メルコスルは現在、欧州自由貿易連合(EFTA、アイスランドやスイスなど欧州4カ国で形成)やカナダ、シンガポール、韓国とのFTA交渉も進めており、EFTAとの交渉は合意間近だという。
対ブラジル輸出では、韓国が日本を上回っている。韓国にFTA交渉で先行された場合、日本のメルコスル域内での存在感低下は免れない。こうした中、経団連は昨年10月、日本政府に対してメルコスルとのEPA交渉の早期開始を求めた。
メルコスルにとって、日本は魅力的な市場だ。メルコスル加盟国のパラグアイは中国との国交がないため、メルコスルは中国とEPAやFTAを結ぶことが現時点では不可能だからだ。






