北の“オリーブの枝”は本物か
付和雷同せず堅固な備えを
分断の象徴である板門店が平和の象徴に変身したことは歴史のアイロニーだ。南北が軍事的に対立するごとに激しいやりとりをした所だ。北朝鮮軍がポプラの枝を切り落とした国連警備兵らに斧(おの)を振り回して殺害した現場でもある。そのような悲劇の最前線で金正恩労働党委員長がポプラの代わりにオリーブの枝を持って登場する。
北朝鮮は首脳会談の事前措置として、豊渓里核実験場の廃棄を宣言した。続けて南北は休戦ラインの対北朝鮮拡声器放送を中断した。双方が緊張緩和に乗り出したことは大変喜ばしいことだが、平和の実現は遠く険しい。金正恩の公言だけで1日で砂利道がアスファルト道路に変わるわけがないためだ。
北朝鮮は10年前、寧辺原子炉の冷却塔まで爆破しながら、裏では核を開発を続けてきた前歴がある。金正恩は4カ月前に、「核ボタンが私の机の上に常に置かれている」と大声を張り上げた。腹違いの兄(金正男)を暗殺し、叔母の夫(張成沢)を高射砲で殺した張本人だ。その独裁者が今平和を語っている。紛らわしくて当惑する。
金正恩が差し出したオリーブの枝が本物なのか偽物なのか。判断はひとまず留保しよう。オリーブはギリシャローマ神話でミネルバの木と呼ばれる。「知恵の神」ミネルバは平和の兆候としてオリーブを手に、肩にフクロウを乗せている。フクロウは知恵を象徴する。平和を守ろうとするなら、事物を見抜くフクロウの目を持つべきという意味であろう。
第2次世界大戦中、フクロウの洞察力を持った政治家は英国のウィンストン・チャーチルだった。1938年チェンバレン英総理はヒトラーにチェコスロバキア領土の一部を渡すミュンヘン協定をかざしながら「光栄な平和」と叫んだ。
チャーチルはヒトラーが渡した偽物のオリーブを喜ぶチェンバレンに向かって、「狼の群れに肉塊を投げた」と非難した。1年後、チャーチルの予想通り、狼の群れは戦車を走らせチェコとポーランドを呑(の)み込んだ。
平和は意思だけでは成り立たない。敵の偽りの平和に騙(だま)されず、賢く対応する時、初めて可能だ。金正恩の非核化の約束は現在では楽観しにくい。彼のオリーブがヒトラーのように偽物かもしれないからだ。
そのような状況ならば、どちらか一方を予断して、付和雷同するよりは不確かな未来に徹底的に備えることが正しい。誰でも自分の命を懸けて賭博はしないだろう。99%の安全が保障されても1%の死亡の危険があれば命を懸けることはない。国家安保も同じだ。
南北対話を行ったとしても、安保態勢はより一層強硬にしなければならない。結果の成否が表れる時まで、まだ時間はある。私たちに必要な徳性は備えあれば憂いなしの精神だ。準備ない平和は危険だ。
(裵然國論説室長、4月27日付)
※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。