【韓国紙】北朝鮮執着がもたらす無理な終戦宣言


韓国紙セゲイルボ

国連制裁緩和は自殺行為

北朝鮮の金正恩総書記(左)と抱き合う韓国の文在寅大統領=2018年4月、板門店(AFP時事)

 東西ドイツが統一された時、ドイツ国民はコール首相でなくブラント元西独首相(社会民主党)を最も称賛した。理由は何か。「接近を通した変化」を旗印に東方政策を推進して、ドイツ統一と欧州平和の礎を築いた彼の功績がより評価されたからだ。

 東方政策の成功はわれわれの統一政策に重大な示唆を与えている。韓国でも進歩(左派)政権が南北の平和定着と統一のため太陽政策と包容政策を推進したからだ。

 問題は東方政策の意味を歪曲(わいきょく)したという点だ。進歩政権は東方政策の武力使用禁止と協力・交流に傾倒して、南北関係の改善と対北支援だけに関心を集中したが、これはブラント氏が東独共産主義政権の人権弾圧を統一後処罰するために、ザルツギッター国家司法局中央登録局の設立を主導した事実を無視したものだ。

 さらに進歩政権は南北関係改善を最優先政策として、北が核・ミサイルで挑発しても機嫌を取るのに汲々(きゅうきゅう)としている。金与正(キムヨジョン)朝鮮労働党副部長が一言いうと、すぐに対北ビラ禁止法をつくった。いったい韓国は自主国家なのか。国内総生産(GDP)が50分の1にすぎない北朝鮮にこのように無視されても構わないのか。

 対北低姿勢と北朝鮮執着症は鄭義溶(チョンウィヨン)外交部長官(外相)が北京冬季五輪を契機に「終戦宣言」と南北首脳会談を実現させようと、国連の対北制裁緩和の必要性を強調することでも確認できる。

 国連の対北制裁は北朝鮮の核武力高度化を防ぐための安全弁だ。それを自ら崩すのは安保自殺行為である。北朝鮮が終戦宣言に呼応するのは、韓国政府の期待する非核化の意志があるからではない。終戦宣言と南北首脳会談への協力を条件に、韓国政府に米国を説得させて、自分たちの生存権を脅かす対北制裁の解除と二重基準および対北敵視政策を撤回させろとの宿題を出したと見るべきだ。

 任期が5カ月残った政権の“業績作り用”の終戦宣言は国家安保でなく、党派的な利益に寄与するだけだ。終戦宣言への未練を捨てることを望む。

 北朝鮮は核を抱いている限り国連制裁が解けず、決して繁栄の道を進むことはできない。それでこういう考えはどうだろうか。韓国が韓米同盟と米国の“核の傘”を安保の最後の砦としているように、中国と北朝鮮に韓米事例を参考にせよと説得してみること。つまり、中朝友好条約を強化して、北朝鮮に核の傘を保障する案だ。

 米国や韓国が北朝鮮を攻撃すれば自動的に中国が参戦して、核の傘の保護まで受けるのであれば、北朝鮮の安保不安は解消できないだろうか。北朝鮮の核放棄を引き出せる創意的な解決策が切実に必要な時だ。

(金煥基(キムファンギ)論説室長、12月21日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。

ポイント解説

北を中国の“核の傘”に入れよ?

 文在寅(ムンジェイン)政権が執着する「終戦宣言」推進は誰がどう見ても北朝鮮を利する以外になく、政権末期の実績作りのために、韓国と周辺国の安保を道連れにする行為以外の何物でもない。金煥基論説室長の指摘はしごくまともであり正論である。
 だが意表を突いたのは終段の「北朝鮮は中国の核の傘の下に入れ」という提案だ。大胆にも程があるが、韓国から見て、北朝鮮を中国に“預ける”のは北の非核化を進める奇策でもある。日本が米国の核の傘の下に入っていることで、日本自体の核武装が抑えられていることを北側に当てはめたのだろう。これが実現すれば、北の非核化はできるかもしれない。だが、中国の核の傘と米国の核の傘が38度線で接する朝鮮半島で、どうやって統一を進めていくのだろうか。米中の意向の中でしか話は進まず、交渉の幅を大きく狭めることだ。

 そして“新冷戦”といわれる米中対立の中で、逆に南北の分断と対立は先鋭化しないだろうか。火を噴くのは台湾海峡でなく、休戦ラインということも考えなければならない。

 また、北の核が日本や韓国に向けられたものとの既成概念を疑う説もある。つまり中国に向いているとの見方だ。中朝は「唇歯の関係」「血盟関係」と言われるが、互いに疎ましく思っているのも事実。北には「東北工程」で中国に吸収されるとの被害妄想じみた考えもあると聞く。北朝鮮が核を持つ動機の一つに対中国カードがあるという点も無視できないだろう。

 すると、奇策には思えたが、現実性はかぎりなく小さい。ここは基本に立ち返って、米韓同盟を基軸にしながら、対日関係を改善して、国際社会を動員し、北朝鮮に核放棄を迫るしかない。手を緩めれば、ずるずると北の核高度化が進んできたのがこれまでの事実だ。

 韓国の次期政権は左派が継続するのか、保守が奪還するのかで対北政策は多少変わってくるだろう。手綱を引き締める方向に向かってくれることを願う。だが今の選挙戦からはスキャンダル暴きばかりで南北政策や外交・国防政策は一向にうかがえない。

(岩崎 哲)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。