尹錫悦氏にリーダーシップリスク 選対発足での混乱、失望に


韓国紙セゲイルボ

韓国大統領選で野党「国民の力」候補の尹錫悦氏=11月25日、ソウル(国民の力提供・時事)

 6日、野党「国民の力」選挙対策委員会が公式発足した。尹錫悦(ユンソンニョル)大統領候補が選出されてから1カ月、本格的に大統領選体制に突入した。選対委構成は難産を経て金鍾仁(キムジョンイン)総括選対委員長、李俊錫(イジュンソク)・金秉準(キムビョンジュン)共同常任選対委員長などで指導部が組まれた。尹候補は「公正が常識になる国をつくる」とし「党選対を中心に選挙を行う」と述べた。

 だが、選対構成の過程で明らかになった尹候補のリーダーシップや政治力は非常に残念なものがある。尹候補は李代表が地方出張中に奇襲入党し、大統領候補になった後には忠清地方の訪問日程を一方的に通知するなど“李代表パッシング”が論議を遞んでいる。李代表を飼い慣らそうとしているとの疑惑まで生んだ。

 金鍾仁委員長に向かっては、「その方」と呼んで不満を隠さず、「キングメーカーは国民と2030(20代30代)の皆さん」だとして距離を置いたりもした。

 こうした党内部のごたごたの中で選対の意志決定過程での混乱が続き、政策ビジョン提示の機能も動力を失った。なのに尹候補はこうした状況を放置したも同然だった。

 尹候補は政治家としての資質と能力をまともに検証される機会がなかったということが弱点に挙げられる。大衆的リーダーシップを学ぶ機会も少なかった。そのためか、まだ彼から検察の態度や文法が覗(のぞ)く。

 洪準杓(ホンジュンピョ)議員は今月2日、尹候補と会った席で、「ここは命令だけすれば着々と動く検察公務員の世界ではない。皆の個性を尊重して相互協力するべきなのに、検察公務員を扱うようにしてはならない」と忠告したという。また、尹候補と党常任顧問団との昼食会で辛卿植(シンギョンシク)顧問は、「尹候補が検察で法を振り回してきたやり方で政治をすると、失う票が相当に多いだろう」と苦言を呈した。多くの人々が共感する話だ。

 万一、尹候補が大統領になっても、多くの障害物を乗り越えなければならない。国会で180議席を占める与党陣営のため、大統領の政治空間が大幅に狭まり、与野党間の激しい闘争が起こり得る。この時こそリーダーシップを発揮しなければならないが、それ相応の準備ができているかは相変わらず疑問だ。

 米国の経営学者ジェームズ・マーチはリーダーシップの根本として配管工事と詩を挙げている。配管工事は既に知られた技術を効果的に適応して日常的なことで組織の効率性を維持する能力だ。また、行動の意味を発見し、人生を魅力的なものにするために詩人の才能を必要とする。特に言葉の重要性を強調している。

 尹錫悦氏はリーダーシップの二つの根本で失敗している。挽回する時間は多くない。これからは時間との戦いになるだろう。尹候補は今後、自分がなぜ大統領にならなければならないかを国民に説得することに集中しなければならない。それでこそ成果を出すことができる。

(朴完奎論説委員、12月7日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。

ポイント解説

不安が的中してきた尹候補

 ここに来て尹錫悦氏の政治資質が問われてきた。最初から分かっていたことだ。検察世界でしか過ごしてこなかった人物にいきなり大統領職が務まるわけがない、とは誰でも分かることだった。尹氏を選ぶしかなかった韓国野党の深刻な人材難が伝わってくる。
 せめて強力な選挙対策本部を構成して臨むしかないが、そこでごたごたが避けられなかったとは前途に暗雲がはっきりと見えてしまう。選対の構成が選挙の要諦であることは日韓も同じだ。選挙戦の帰趨(きすう)を左右するからだ。もともと党内基盤がない上に、党代表を蔑(ないがし)ろにしたり、長老を無視するようでは、まともな選対が構成できるはずがない。ヨイド(日本で言う「永田町」)素人の尹氏を助ける人材も本気で取り組む気をなくすだろう。他国のことながら心配になる。

 なぜ心配かと言えば、いまのところ、候補者たちの主張を聞いている分には、尹氏は最悪の日韓関係を多少なりとも改善できる可能性をのぞかせているからだ。与党共に民主党の李在明氏の対日強硬発言をみれば、消去法で尹氏とならざるを得ない。その尹氏が本格化した選挙戦の初っ端から、党内不協和音を抱えてスタートしたとなると外野もざわつくわけだ。記事でも指摘されている通り、尹氏に政治的リーダーシップを期待するのは間違っていたのかもしれない。それどころか、「時間がない」とか、なにやら絶望感のようなものも伝わってくる。

 こうなると逆説めくが、李在明氏が徹底したポピュリストであるということに期待をかけるしかなくなる。なぜか。現実的利益を選択するからだ。「道義」とか「道徳」とかを外交に持ち出してくる韓国スタイルから脱して、実利主義、国益重視で臨めば、日本と組むことが韓国の国益に合致する点が多いということに気付くはずだ。政治も分からない人物よりも、よほど“読める”人物ということになる。

 3カ月で人が変わるというのは難しい。粗を見せるには十分長い時間だ。その中で見極めていくしかない。

(岩崎 哲)