ショルツ独新政権発足


連立3党、コロナ対処で結束
ウィズ・コロナ時代では緩みも

緑の党のハーベック共同党首(AFP時事)

 ドイツ連邦議会で8日、社会民主党(SPD)、「緑の党」、そして自由民主党(FDP)の3党から成るショルツ連立政権が承認され、新政権が発足した。

 ショルツ連立政権はその党カラー赤、緑、黄の3色から信号機政権とメディアでは呼ばれてきた。党のカラーだけではなく、3党の政治信条、基本路線にはかなり相違がある。177㌻にまとめられた連立協定はその3党の政策の最大共通点(総論)をまとめたもので、各論では3党間の違いはやはり大きい。

 4週間を超える3党連立交渉ではその相違を克服するために全力が投入されたというより、3党連立を実現するために歩み寄りが最優先された感がある。連立協定のタイトル「自由、正義、持続可能性のための同盟」を見ても、3党の連立政権発足への意気込みを感じる。

 問題は、連立交渉が成功裏に終わった各党の相違が霧消したわけではないことだ。例えば、連立交渉では、増税に強く反対するFDPの主張を他の2党は受け入れ、高速道路のスピード制限でも「緑の党」はFDPの意向をくみ、それを連立政権の公約から外すなど譲歩している。連立交渉では、SPDと「緑の党」の間の相違より、同両党とリベラル政党FDPとの相違をいかに解消するかに焦点があった。

緑の党のベーアボック共同党首(AFP時事)

 同国野党の極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)はショルツ3党連立政権を「左翼政権」と呼んでいる。それに対し、FDPのリントナー党首は先月24日、連立交渉が合意した直後の記者会見で「3党で共通する点はわが国を近代化しなければならないという認識があることだ」と主張し、「新政権は中道政権だ」と強調している。リベラル政党で過去、社民党ら左派政党を厳しく批判してきたリントナー党首としては「新政権は左派政権」と呼ばれることを良しとしない。

 州レベルでは3党連立政権は過去にもあったが、連邦レベルの3党連立はドイツでは初めてだ。その意味でショルツ3党連立政権が任期4年間を満了できるか、それとも連立解消で早期選挙の実施となるかは、現時点では判断できない。明確な点は、ドイツでは政権内の争いから早期総選挙を実施する余裕はないことだ。新型コロナウイルスの感染が拡大し、新規感染者が増加している。その上、オミクロン変異株が拡散の気配を見せている時だ。新政権の最大の緊急課題はコロナ感染対策だ。その意味で、与野党は一致している。

 ショルツ首相は政権発足前から「連邦首相府にコロナウイルス危機対策チームを常設する」と表明、ワクチン接種の義務化については、「特定の職者の義務化は当然だが、一般の義務化については検討しなければならない」という立場を明らかにした。隣国オーストリアで来年2月1日からワクチン接種の義務化を実施するのを受け、ドイツでもワクチン接種の義務化の実施が現実味を帯びてきた。

ドイツの自由民主党(FDP)のリントナー党首(EPA時事)

 新政権は「欧州と世界に対するドイツの責任」という項目で、「ドイツはヨーロッパと世界で強力なプレーヤーである必要がある。ドイツの外交政策の強みを復活させる時が来た」と強調し、「私たちの国際政策は価値に基づいており、ヨーロッパに組み込まれ、志を同じくするパートナーと緊密に連携し、国際的なルール違反者に対して明確な態度を示す」と述べている。

 メルケル首相は欧州連合(EU)の顔として加盟国結束のために尽力してきたが、対中政策で関与政策を継続し、ドイツの産業用ロボット製造大手「クーカ」が2016年、中国企業に買収されるなど、中国に先端科学技術への取得の道を与えてしまった。それだけに、新政権は共通の価値観に基づいた外交を進めていくべきだろう。

 奇妙な言い方だが、コロナ感染が猛威を振るい、その対策に没頭せざるを得ない時、ショルツ連立政権はその大義の下で結束できるが、ウィズ・コロナ、ポスト・コロナ時代に突入した時、果たして政治信条が異なる3党がその連立の結束を維持できるかは不確かだ。欧州の盟主ドイツの動向は世界の政治、経済にも大きな影響を与えるだけに、ドイツのショルツ3党連立政権が新しいドイツ政治の道を開拓するか、期待を込めて注視していきたい。

(ウィーン・小川 敏)