【韓国紙】米中、対立拡大自制し戦略競争へ
新政府は新たな外交ビジョンを
米中関係に複雑微妙な変化が起きている。一見すると米中間の対立と衝突の危険性がより一層拡大していっているようにも見える。米国は既存の米日豪印の枠組み「クアッド」以外にも、米英豪の安保協力体制AUKUSを発足させた。米英両国は中国を牽制(けんせい)するために、オーストラリアの原子力潜水艦戦力確保に協力することにした。
中国は最近、米国が現在の体制では防御し難い極超音速ミサイルの試験発射に成功した。台湾の空・海域で中国が影響力を公然と行使しようとしている。ロシアとともに合同軍事演習を行い、日本の三つの海峡を横切って日本列島を軍事的に包囲するような作戦も繰り広げた。
国内外の一部では、中国が近い将来、台湾を軍事的に侵攻する場合の備えに対する憂慮が提起されている。韓半島もまた、このような強大国ゲームの犠牲者になるのではないかという心配も増大している。
国内は大統領選挙政局だ。泥沼の戦いに陥った与野党候補者たちは依然、外交・安保問題には大きい比重を置いていない。彼らの外交安保公約には米中戦略競争への対応策、北朝鮮の核ミサイルに対する軍事的対応力の確保、日本との関係改善、新しい国際秩序の樹立に関したビジョンを探すのが難しい。
米中間は外観的には対決の様相だが、暫定的な休戦の雰囲気も窺(うかが)える。選択ノイローゼに陥った韓国内の議論にひとまず余裕を与えるものと見られる。
バイデン米政権は徐々に衝突よりは競争が対中政策の基調だということを明確にしている。今年3月、アラスカでの米中外交トップ会談、7月のシャーマン米国務副長官の訪中、10月のサリバン米大統領補佐官と中国の外交トップ、楊潔篪政治局員との会合結果を見ると、米側は一貫して「一つの中国原則」遵守(じゅんしゅ)を確約している。中国との関係を安定的に管理しながら競争するという明白な信号だ。
来年は米では中間選挙が行われ、中国は第20回党大会が開かれ、習近平第3期執権を図る時期だ。米中両国はともに国内政治日程に負担となる対立の拡大を自制する様子だ。
22年に限定するなら、米中間に部分的な戦略的協力モデルの稼動も可能だ。米中は互いに気候変動や生態系の保護、疾病問題など世界的な問題について一定程度協力する姿を見せることができる。貿易戦争の拡大も自制するだろう。
米国中心の既存のパラダイムが大きく揺れ動き、21世紀の新しい国際政治の変化という津波が押し寄せてきている。対外政策における今後5年の選択が韓国の50年を左右し得るという危機感も大きい。新政府の外交安保政策はこのすべてのシナリオを包括する想像力とビジョンを持たなければならない。
(金興圭(キムフンギュ)亜洲大米中政策研究所長、10月29日付)
※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。
ポイント解説
強大国ゲームから抜け出すには
クアッドやAUKUSなど対中包囲網が次々と形成され、そこから除外されている韓国はこうした動きに遅れまいとする焦りと、中国の目を気にして軽々には飛びつけないとの自制の間で揺れている。
その一方で、米中双方の国内政治状況による“暫定的な休戦”や、戦略的協力の可能性も見えていて、韓国は自身の立ち位置を決める“時間的余裕”を得ているという分析だ。
しかし、その時間的余裕をいたずらに浪費しているのが現状である。大統領選が本格化しながら、韓国の政治焦点はますます内向化しているのだ。しかも経済や少子高齢化対策などの議論ではなく、相手候補の疑惑暴きや個人スキャンダル攻撃ばかりの泥仕合で、国家戦略や外交政策といった韓国の近未来を決める重要案件に対する議論はほとんど聞こえてこない。
韓半島はこれまで「強大国ゲームの犠牲」になってきた、というのが自己認識だ。周辺を強大国に囲まれているという地政学的条件もあるが、それが繰り返されてきたのは「過去に学ぶ」ことがなかったという証左でもある。川が氾濫し洪水が起これば、堤防を高くするか、川の流れを変える大工事もする。
だが、犠牲が繰り返されてきたのは、甘い事前予測と楽観的な対策、内部抗争による国力の疲弊、どっちつかずの曖昧な対外政策、等々の結果だ。内輪もめをしている間に、外の状況は一変することもある。
“国際政治の大津波”に対して「時間的余裕」があると油断しているが、夏休みの宿題を放置して、まだ何日あると遊び惚(ほう)けている小学生にならないことを祈る。
(岩崎 哲)