柔軟な国家戦略必要な米中“新冷戦”


韓国紙セゲイルボ

台湾、南シナ海“火薬庫”に

 米国と中国の戦いは激烈で戦線も全方向に拡大している。バイデン米大統領は先月末の議会演説で、中国の習近平国家主席を「独裁者」と呼び、「21世紀を中国に渡さないようにしよう」と述べた。ブリンケン国務長官も米中関係を「21世紀最大の地政学的な試練」と言った。中国の台頭を憂慮する米国の切羽詰まった本音がにじみ出ている。

5月21日、ホワイトハウスで、記者会見に臨む韓国の文在寅大統領(左)とバイデン米大統領(AFP時事)

5月21日、ホワイトハウスで、記者会見に臨む韓国の文在寅大統領(左)とバイデン米大統領(AFP時事)

 バイデン政権は3月、日本・オーストラリア・インドとともにインド太平洋地域4者協議体クアッドの初首脳会議を開き、対中包囲網を構築した。

 軍事的緊張も高まっている。台湾海峡と南シナ海はアジアの“火薬庫”に浮上して久しい。米航空母艦が台湾海峡を行き来し、上海近海で軍事訓練を行う。互いに艦隊間の追撃戦まで繰り広げるきわどい場面もあった。中国が台湾侵攻に出るという憂慮まで出ている。

 経済戦争も尋常でない。バイデン大統領がグローバル企業の最高経営者らの前で微博(ウェイボー)を揺さぶり米国への投資を呼び掛けた。バイデン政権はアジアに偏重する半導体供給網を自国中心に再編し、その対象もバッテリー・電気自動車・バイオ・6G・人工知能(AI)・原発などに拡大している。

 韓米首脳会談には新冷戦構図が投影されている。42年ぶりにミサイル指針が廃棄されたが、これは米国の対中包囲戦略と合致した結果だ。共同声明に台湾海峡・南シナ海が明記されたのも中国を刺激する素地が多分にある。中国外交部は「火遊びするな」と脅しをかけた。韓半島が新冷戦の激戦地に転落しないとも限らない。サムスン・現代自動車など韓国企業の対米投資がブーメランとして作用する恐れもある。

 韓国は対中輸出が全体の4分の1を占めるほど中国依存度が高い。2017年の高高度防衛ミサイル(THAAD)配備時のように中国が経済報復を強行すれば韓国経済は大打撃を受けることが明白だ。中国がこの30年余り世界の工場と呼ばれ、構築してきた産業生態系が一日で崩壊することはありえない。中間に挟まった韓国はますます身動きの幅が狭くなるだろう。

 文在寅(ムンジェイン)政権が北核と南北関係に執着しているが、任期末に成果を出すのは難しい。今は国力の源泉である経済力・軍事力の拡充に力を注ぎ充実を期す時だ。視界を広げて統一・平和の道に進むことができる情勢変化を待つのが順当だ。

 対中外交にも隙があってはならない。習主席の訪韓を成功させて共通利益と共感を広げなければならない。自由・民主の価値と外交原則を堅持するものの、懸案ごとに細心な管理と機敏な対処が必要だ。民官が共に新冷戦の波を乗り切る柔軟な国家戦略を練らなければならない。

(朱春烈(チュチュンニョル)論説委員、5月27日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。

ポイント解説

新冷戦下で対中外交苦境に

 保守紙にしては少し驚く解説だ。文在寅大統領訪米の手土産として「ミサイル制限」の解除を得たはいいが、理論上、韓国は中国北京を狙えるミサイルを持つことができる、というのは十分に中国を刺激する。対中関係に神経をすり減らす材料を抱えたようなもので、今後“言い訳”に苦心するだろう。

 「習近平訪韓」を成功させ「共通利益と共感」を広げるとも言っているが、そう簡単ではない。韓国は相手に有利なカードを持たれたことになる。習訪韓と引き換えにミサイル射程を自主的に抑える条件を呑まされる可能性もある。まずもって対中外交で「自由・民主価値と外交原則を堅持する」ことができるかどうか、試練だ。

 その一方で「経済力・軍事力の拡充」に傾注せよと政府に求めているが、それも中国を刺激することだ。見方を変えれば韓国の外交条件がいかに厳しいかを示している。その突破口が日本との連携、関係強化で、それによって韓国外交の幅も広がるのだが、記事ではそのことにまったく触れていない。日本など眼中にない、という伝統的な朝鮮外交の誤りを繰り返しているのだ。このメンタルが変わらなければ、半島は常に難しい状況で足掻かなければならない。

 特に「新冷戦」という認識に立てば、自由民主主義、資本主義経済という共通価値を持つ日米と堅固な関係を構築して、共同で共産主義独裁勢力に当たらなければならない。自由陣営が固くまとまることが、対中外交で「動ける幅」を広く確保することにつながる。

 確かに韓国は対日関係改善を求めるサインを繰り返し出している。だが懸案に対する回答をすっ飛ばして、仲良くしようというのは無原則な外交だ。それに文政権の思惑も透けて見える。韓国の苦衷も分かるが、日本を納得させる努力も必要だ。

(岩崎 哲)