構造的不道徳に失望した韓国の20代、 現実認識せぬ政界は自省を
4月7日のソウル・釜山市長選挙の結果は共に民主党の惨敗だった。民主党出身市長の不祥事に伴う選挙で、野党側に有利な戦いになることは明らかだった。
だが票差があまりにも大きい。呉世勲(オセフン)ソウル市長は10年前、自ら辞任した後、敗北を繰り返した政治周辺人だった。この4年間、政権与党がどれくらい人心を失ったかをよく見せている。
特に政権与党に衝撃を与えたのは20代の離脱だ。出口調査の結果によれば、20代で呉市長は朴映宣(パクヨンソン)民主党候補を21・2ポイントも上回った。これは両候補の最終的な差である18・3ポイントよりも約3ポイント大きい数値だ。
2018年地方選挙の出口調査で朴元淳(パクウォンスン)候補が20代で60%を得た結果と比べると隔世の感だ。いくら現政権の支持度が下落したといっても、このような20代の変心は目を引く。
さらに注目すべきは、20代男性の支持が呉市長に72・5%も集中した(女性は40・9%)ことだ。20代はなぜ野党の国民の力を圧倒的に支持し、とりわけ男性は現政権に厳しかったのか。
まず、20代は現実的利益と社会的価値をともに追求する生き方を志向するが、4年間その期待は裏切られ続けた。韓国社会は低成長社会の局面に入って、20代は親より貧しくなり得るという危機感を持つようになった。最低賃金の無理な引き上げ、原則のない雇用政策で青年の体感失業率は過去最高に達した。市場原理を無視して失敗した不動産政策は「イセンチプマン(現世で家は買えない)」という自嘲的表現に帰結した。
20代は成人としてのアイデンティティーを形成する10代後半から20代初めに“ろうそくデモ革命”を目撃した。公正と正義を人生の準則として受け入れる特別な経験をしたのだ。かつてなかった“公正な国”実現に最も大きな期待をかけた世代といって過言でない。
ところが状況は期待とは反対に進んだ。政権発足後、数えきれないほどの「自分に甘く、他に厳しい」手前勝手なやり方と、土地住宅公社(LH)投機事件という構造的不道徳に一層大きく失望することになった。
次に、20代男性は家父長制の社会構造の存続と解体の分岐点で、自身の存在感とアイデンティティーに脅威を感じているが、政権勢力は社会的な援助と関心を与えなかった。女性主義の台頭で20代男性と女性の対立が拡大し、高まる就職のハードルと上昇した不動産価格は、20代男性にとって非常に大きな結婚への負担になる。このような状況を作った現政権が嫌いだ。
男性に有利だった社会状況も変わりつつある。女性割当制、出産率減少による兵役特例の減少のような政策が進められ、20代男性は結果的に自身の落ち度でないのに自身の負担が大きくなると判断するようになる。
政治勢力が20代への深慮もなく募兵制、アンチフェミニズムのような扇動的な話題を掲げて敵味方の仕分けに没頭する姿を見るともどかしいばかりだ。大統領選挙の票計算よりは20代の胸の内から理解しようとする政界の自省を促したい。
(金重白(キムジョンベク)慶煕大教授、4月26日付)
※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。
ポイント解説
「20代離反」招いた政権の傲慢
4月に行われたソウルと釜山の市長選では野党候補がダブルスコアで与党候補を圧倒した。それほど野党と候補者の支持度が高かったのかと言えば、そうではない。「敵失」に依っただけなのだ。
勝者は誰かと言えば、いない。あえて言えば、「20代男性の怒り」が選挙に反映した。ソウル市でいえば、野党候補にこの世代の8割が投票した。金重白教授が言うように呉世勲氏が優れた政治家だからではない。与党に失望し、怒っているから、野党に入れたにすぎないのだ。
金教授の分析はユニークだ。10代後半の多感な時期に「ろうそく革命」を目撃し、参加した世代は「これでまともな国になる」との期待を抱いたとする。なるほど彼らはそういう世代なのだ。左派政権は「清潔」で「正直」というイメージにとらわれた。
ところが、彼らがやったことは、これまでの軍事政権や保守政権と何の変わりもなかった。いやむしろ極端な身内びいきと、「積弊清算」に名を借りた仕返し(リベンジ)、頭でっかちの左派学生運動の理論・体質が漏出した。
就職も難しい。家などさらさら持てない。男子は配偶者を迎える準備ができず「結婚できない将来」を座視するしかない。なのに学生運動指導部にありがちだった「性奉仕」を市長が強要し、政権は不動産政策のへまを繰り返すだけでなく、上手(うま)く立ち回って個人利益を得る。「不道徳」そのものだ。これに怒らない若者はいない。
有権者の鉄槌が下った韓国与党だが、この「20代男性の怒り」を理解するかどうかが大統領選のカギとなる。「胸の内を聞け」とはどこの政治家にも当てはまる。
(岩崎 哲)