政府の大型マート規制で11万雇用喪失、オンライン時代に逆行


韓国紙セゲイルボ

 韓国流通学会が最近発表した「政府の流通規制の影響」報告書によれば、大型マート1店舗の閉店で、直接間接の雇用減少人数が1374人に達することが分かった。大型マートの雇用人力と入店賃貸業者、納品業者など945の職場が消えるということだ。周辺商圏の売り上げ減少にも影響を及ぼし半径3㌔㍍以内で消える職場が429カ所に達すると分析されている。

マスクが売られるのが見られたアクセサリー店2月8日、韓国ソウル

マスクが売られるのが見られたアクセサリー店2月8日、韓国ソウル

 2017年から現在まで閉店したり閉店予定の店舗数は79店で、同報告の計算通りなら、職場を失うことになる労働者が約11万人もなる。

 もちろん大型マート閉店の背景には政府の営業規制だけでなくEコマース(電子商取引)流通社との競争、消費者の好みの変化、コロナ禍の余波などが複合的に作用している。

 だが業界は、新規出店規制、月2回の義務休業指定、営業時間規制などを骨子とした流通産業発展法が過去10年間の大型マートのマイナス成長をもたらした直撃弾だったと口をそろえる。政府が当初、名分として掲げた「地域商圏・伝統市場の活性化効果」は目立たなかった。クレジットカード、ビッグデータなどを分析すると、かえって大型マート規制で集客効果が落ち、路地市場も共に低迷する悪循環が起こった。

 それでも国会には大型マートをターゲットにした規制法案が日々出されている。伝統市場周辺の大型マート出店制限の存続期限をさらに5年間延長する「流通産業発展法改正案」はすでに国会の本会議を通過した。

 大型マートに適用する義務休業をデパートと免税店、アウトレット、複合ショッピングモールなどに拡大する流通法改正案など、流通関連規制法案が10件余り発議されている。多分に地元市場の投票者心理だけを意識した“デタラメ規制”法案である。

 すでに流通業界は路地市場対大型マートの構図ではなく、オンライン対オフラインの構図に変化して久しい。コロナ禍はこれを急速に変えた。いまや消費者は大型マートを閉店しても伝統市場を訪ねるのではなく、オンライン売り場を訪れる。Eコマースの市場規模がますます拡大するのはこのためだ。

 こうした時代の流れと懸け離れた流通業界規制は伝統市場の活性化という名分も失って、関連従事者の職場を奪う逆効果を招いた。流通業界規制は国内産業界全体として見れば小さい部分だと片付けることもできるが、国民の実生活に及ぼす影響は非常に大きい。

 政府は機会があるごとに国内景気の活路を見いだすために内需市場を活性化しなければならないと言うが、政策は逆方向に向かっている。現場の状況をきちんと把握して政策を打ち出しているのか、問わざるを得ない。

 流通業界規制法案を作る国会、政府関係者たちに本当に尋ねたい質問はこれだ。「路地商圏を生かすために伝統市場だけを利用しますか?」

(キム・キファン産業部長、12月9日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。

ポイント解説

伝統市場を活かそうとしても

 南大門市場、東大門市場等々、韓国の市場は早朝から活気と熱気と猥雑さに満ちていた。日本での買い物ではめったにない「値切り」が当たり前で、「アジュンマ」(おばさん)たちを相手に日本訛りの韓国語で交渉したが、「帰国者か?」「いや日本人だ」と正直に言おうものならほとんど値切れなかった。

 こうした半ば観光地化した有名市場の他に、町々の横丁には地元の市場があり、生鮮食料品から日用品まで、それこそ「何でも」売っていた。品質値段はいいかげんだったが、それゆえに買い物の目が肥えた。

 財閥系の大型マートができてから、こうした伝統市場は廃れていった。清潔で明るく、何より品質と値段に「信用」があった。定価だから値切りの楽しみはなくなったが、安心してショッピングができる。伝統茶や菓子などもあり、匂いのきつい漬物類も厳重に包装してあるから海外土産にしても安心だ。ソウル駅のロッテマートはここから仁川空港行きの電車が出るから重宝したものだ。

 選挙区の路地商店街を活(い)かそうと、大型マートに種々の規制をかける法案を出す。どこの国の国会議員も同じ行動心理である。しかし、わが国でも農業を保護して、結果として農業を潰(つぶ)し、中小企業を保護して、中小企業の競争力を削ぐように、意図とは違う結果が出てきている。

 韓国の場合、大型マートを規制したところで、地元の市場が活気を取り戻すことはない。日本よりもデジタル化が進んでいる韓国ではEコマースの方がどんどん発達していった。消費者は横丁の市場に買いに出るより、家でPCに向かってキーを叩けば、品物は配達される。

 キム産業部長は議員たちに「それじゃあ路地市場で買い物するか」と問うが、議員や新聞社の部長の子弟たちはネットで買い物をしているのだ。時代は急速度で変化している。彼らも有権者であることを忘れてはならない。

(岩崎 哲)