誰が大韓民国の“救国の英雄”なのか


韓国紙セゲイルボ

文政権、白氏哀悼の声明なし

 白善燁(ペクソニョプ)将軍は北朝鮮には不倶戴天の敵だったかもしれないが、韓国にとっては救国の英雄であることは明らかだ。ドイツの哲学者ヘーゲルが「従僕の目に英雄なし」と言ったように、見る視点が間違っていれば、誰が英雄かも分からない。

 白将軍の逝去に、政府は一言の哀悼声明さえ出さなかった。むしろ米国の政府と指導者たちが追慕声明を出した。

白善燁氏(2010年3月、ソウル市内の事務所で上田勇実撮影)

白善燁氏(2010年3月、ソウル市内の事務所で上田勇実撮影)

 多くの国民がソウル顕忠院(国家功労者の国立墓地)への安置を請願したが無視された。顕忠院ならば全て同じなのではない。ソウル顕忠院は1954年、李承晩大統領の意思によって、戦争中散華した12万の将兵たちの幽宅(墓)として建設された。当時、ソウル近郊に広大な国立墓地を建設する場所を捜すのは難しかったが、李大統領は彼の門中である全州李氏讓寧君派の所有地を献納させて国立墓地を建設した。

 このようにソウル顕忠院は6・25戦争(朝鮮戦争)の勇士が眠る場所であり、また韓国の代表的な愛国者たちが眠る国家の中心的な顕忠院なので、白将軍が入るのは当然のことだ。

 ところが今年5月、国家報勲処の幹部が白将軍を訪ね、「国立墓地法が改正されれば、(ソウル)顕忠院に安置されても、また掘り返して改葬される恐れがある」と、ソウル顕忠院への安置は難しいと通告した。さらに白将軍安置直後、報勲処は安置人情報に「親日反民族行為者」と明示した。

 現政権を握る勢力は護国勢力と産業化勢力を親日派と罵倒してきたし、特に朴正煕大統領をはじめ、丁一権(韓国動乱当時の陸軍参謀総長、元首相)、白善燁など、大韓民国に大きく寄与した指導者たちに「親日反民族行為者」という烙印(らくいん)を押したためだ。さらに、彼らは「親日派破墓法」を作って、顕忠院の“親日人士たち”の墓まで掘り起こすつもりだという。

 共産侵略を撃退して経済発展の奇跡を起こした国であるのに、これに寄与した指導者たちは無視される。その半面、(日本統治期の)独立運動と民主化の英雄はあふれ出ている。独立運動と民主化の英雄を尊敬したとしても、護国英雄、経済発展の英雄など他の英雄も尊敬してこそ“国らしい国”と言える。

 政権勢力は親日分子という彼らだけの“絶対基準”で過去の愛国者たちを罵倒する。ある進歩指向の弁護士は白将軍に対して、同じ民族の北朝鮮に向かって銃を撃った人をどうして顕忠院に安置することができようかと言った。

 それなら同族間の戦争を起こし、200万以上の人命被害を出して国を灰にした金日成の忠僕だった金元鳳(臨時政府光復軍副司令官等歴任)を抗日闘争したとの理由で“国軍創設の根元”として勲章まで与えようとしたことはどのように正当化されるのだろうか。

 白善燁と金元鳳、誰が英雄かまだ分からないのだろうか。

(金忠男前外交安保研究院教授、7月27日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。

《ポイント解説》

歴史すら静かに眠れない国

 また白善燁将軍の話題だが、彼の処遇をめぐって、文在寅政府を非難する韓国民の声がやまない。文政権は「韓国動乱の英雄」の死に弔意すら表さず、由緒あるソウルの国立墓地に埋葬することを許さなかった。極論すれば、白将軍の奮迅の戦いがなければ、今日の発展した韓国はこの世に存在しなかったのにである。

 価値の物差しが完全に逆転している、ということを実感する。文政権の仕打ちは歴史観がまるで逆だ。彼らから見れば、白将軍は「赤化統一」のチャンスを潰(つぶ)した“民族の敵”も同然で、「親日反民族行為者」であるから、国立墓地に葬られないのは当然という理屈なのだ。これを革命政権の業と言わずして何と言うか。

 しかも、永眠の床に就いた将軍の墓を法律まで作って暴こうとしている。国立墓地に埋葬されている「親日」のレッテルを貼られた人々の墓を別の場所に改葬する、というものだ。白将軍だけの話ではなく、政権の価値基準から見て不適当な人々は強制的に排除、改葬されるのである。

 かつて中国・朝鮮には「剖棺斬屍」という極刑があった。墓を暴き死体を掘り起こして斬刑などに処す刑罰で、徹底して名誉どころか尊厳まで剥ぎ取るものだ。まるで“歴史”を処断するように。今日の人権感覚とは絶対に相いれない価値観だ。それが“人権派弁護士”出身の大統領を戴く政権与党から出ている。

 死と埋葬でついた区切りを遡って蒸し返すやり方は、遡及法で過去の事例を「不法」にしてみたり、国と国との条約などを「そもそもなかったこと」にしようとする韓国の歴史問題への取り組み方に通じる。一時期、日本政府は韓国を「価値を共有する」国から外したが、あながち間違いではない。韓国は歴史ですら静かに寝付かせてはもらえないほど苛烈な社会なのだ。

(岩崎 哲)